オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Saitoh, K., Chen, W. J., Mayden, R.L. (2010) Extensive hybridization and tetrapolyploidy in spined loach fish. Molecular Phylogenetics and Evolution, 56: 1001-1010.
ごくたまに行われる論文紹介。今年の春に出ていたシマドジョウ類の論文です。特に日本産のシマドジョウ種群(biwae complex)とスジシマドジョウ種群(striata complex)について、複数の部分塩基配列を読んで系統樹を作成・比較し、その起源を追った迫力ある論文です。内容の細かい部分は私の専門外(勉強不足ともいう)ではありますが、各部分塩基配列で作成した樹状図を見比べることで、その内容はだいたい理解できるものと思います。重要な部分は多々あり、いわゆる「スジシマドジョウ小型種九州型」が明らかに小型種ではなく中型種に近縁だということや、謎の小型種淀川型が見た目の違いとは異なり、小型種琵琶湖型とほぼ同じ集団に属するというところや、あるいは小型種が山陰型、東海型、山陽型+琵琶湖型(淀川型)というまとまりを作るであろうところなどが「ドジョウ好き」の私から見た興味深い点です。
しかしながら、この論文の本質は別のところであって、特にスジシマドジョウ大型種が小型種、中型種、シマドジョウの3種の遺伝子を持っているらしいことと、ドジョウやヒナイシドジョウも含めてこのグループが遺伝的にかなり複雑な交流を呈して成立してきたらしいことなど、これまで知られていなかった知見が数多くちりばめられています。別種同士が交雑をして4倍体の別種になった後に、染色体数を減らして再び他種と交雑して別種となる、という進化を繰り返しているのではないかという、シマドジョウ類の種分化様式が浮かび上がってきて、色々と妄想の膨らむ論文です。
で、きっと内容の詳細はこの分野に詳しいTommyさんが自身のウェブサイトで解説なさるでしょうから、ここではこの辺でやめておきます。
この論文ではいわゆるヤマトシマドジョウ種群には触れていないのですが、それは次の論文で、ということのようです。楽しみです。