オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kitamura, J., Nagata, N., Nakajima, J., Sota, T. (2012) Divergence of ovipositor length and egg shape in a brood parasitic bitterling fish through the use of different mussel hosts. Journal of Evolutionary Biology, 25: 566-573.
doi: 10.1111/j.1420-9101.2011.02453.x
日本の誇る名タナゴ亜科魚類タビラに関する論文です。タビラにはご存知のようにアカヒレタビラ、キタノアカヒレタビラ、ミナミアカヒレタビラ、シロヒレタビラ、セボシタビラの5亜種がおり、東北地方から九州北部にかけてそれぞれ地域を違えて分布しています。本研究ではこの5亜種について全国の24地点における生息環境、産卵母貝、産卵管長、卵形、遺伝的な系統関係などなどを記載し、産卵管の長さと卵形がどのようにして分化したのか、という謎に迫っています。
結果として産卵管長と卵形は産卵母貝によって異なることがわかるのですが、それらは必ずしも系統関係に左右されておらず、それぞれその場で独立して得られた形質であることがわかりました。タビラ類が環境の不安定そうな日本列島で絶滅せずに分布を拡大していったその秘密の一端がここにあるのではないでしょうか。
あと、淡水魚類愛好家にとって興味深いのは各亜種の系統関係を示したFig.3でしょうか。特にミナミアカヒレタビラについては、ほほう、という結果です。その他各産地の各亜種の色々な情報が提示されているので、これらのデータを見るだけでも面白いと思います。
しかしこうして長い歴史の中でうまく地域の二枚貝にあわせて生き延びてきたこのタビラ軍団が各地で激減しているのは悲しい限りです。