オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Tsukagoshi, H., Yokoyama, R., Goto, A. (2011) Mitochondrial DNA analysis reveals a unique population structure of the amphidromous sculpin Cottus pollux middle-egg type (Teleostei: Cottidae). Molecular Phylogenetics and Evolution, 60: 265-270.
まだちょっと斜め読みしただけですが、カジカ中卵型の系統地理学的研究です。いわゆる「カジカ」とされているものには、大卵型、中卵型、小卵型の3型いることがわかっていて、これらはそれぞれ別種と考えられています。このうち大卵型は純淡水魚(一生を淡水域で過ごす)、中卵型と小卵型は基本的に両側回遊魚(淡水域で産卵・孵化し、孵化した仔魚は海に降りて、しばらく後に再度川に上り成長する)です。
この論文ではカジカ中卵型が一旦海に降りるという生活史を持つにもかかわらず、遺伝的に区別できる5つのクレード(北日本若狭湾、西日本、瀬戸内、九州)が地域的にまとまって分布していることを示しています。移動能力の低い、純淡水魚類のようです。興味深いのは日本海側で、すべて日本海に面しているにもかかわらず、北日本若狭湾、西日本と3集団が存在することです。仔魚期に海に降りる割になんでこんなに遺伝的な差が出てくるのでしょうか。著者らは考察で、仔魚期の分散能力の低さと、地域による水温の違いが引き起こす繁殖期・分散期の地域的な違いが原因ではないかと考察しています。たしかにユニークな分布パターンです。
九州では有明海八代海流入河川のものを九州クレードとして区別していますが、もともと九州には日本海側と瀬戸内側にもカジカ中卵型が分布していたので、九州日本海側には西日本集団が、九州瀬戸内海側には瀬戸内集団が、それぞれ分布しているという面白い地域だったものと思われます。なのでこの論文でいう九州集団は、有明八代海集団という感じでしょう。日本海側の集団と瀬戸内海側の集団は1960年代までにすべて絶滅したようです。標本は残されていますが、なんとも残念です。標本があっただけ幸運とも言えますが、切ない話です。

これは国立科学博物館で保管されていたカジカ中卵型と思われる個体の標本。現在の福岡県みやこ町今川水系産。採集日は1963年11月21日。採集者は中村守純。