オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kurita, T., Yoshino, T. (2012) Cryptic diversity of the eel goby, genus Taenioides (Gobiidae: Amblyopinae), in Japan. Zoological Science, 29: 538-545.
時折の論文紹介。日本とその周辺のチワラスボ種群の秘密に迫った論文です。チワラスボTaenioides cirratus (Blyth,1860)・・、ワラスボよりもどこにでも居る割に、一般人の認知度はワラスボよりはるかに下という可哀想な魚ですが、そんなところにこそ新発見が眠っているというところでしょうか。
論文では和歌山、高知、佐賀、沖縄本島マレー半島から得たチワラスボを材料に、ミトコンドリアDNA部分塩基配列による遺伝的な集団構造の解析とオーソドックスな形態計測の2つの観点から、日本でチワラスボとしてまとめられている種には4種が含まれているようだ、という結果を導いています。サンプリング地点が必要最小限すぎるような気もしますが、絶妙でたまりません。そして結果は明瞭です。
沖縄本島ではこのうち3集団(A、C、D)が、和歌山や高知では2集団(B、C)が見つかっており、形態的差異も踏まえてそれぞれ別種である可能性は高いと思います。今後の分類学的研究が楽しみです。でも学名を決めるのは大変そう。
この論文では我らが九州においてC種しか出ていませんが、この分布様式からすれば間違いなくB種もいるでしょう。A種がいてもおかしくありません。とかいう感じで夢が広がります。おそらく好適生息環境や生活史に違いがありそうなので、その辺も注目したいところです。
今回報告された4集団については、背鰭・胸鰭・尻鰭の条数の組み合わせで簡易な同定はできそうです。これなら写真からでもある程度わかる!と、ワクワクして手元のチワラスボフォルダを開放したところ、2産地しかない。しかもきちんと撮影してない・・。まあ干潟魚だし、ちょっと愛が足りなかったかな・・。とりあえずその2産地・福岡県と宮崎県のチワラスボ画像を下に。でも並べてみて思ったけど、これ種類違くないですか?気のせい?

↑これが福岡県産(日本海側)。

↑こちらは宮崎県産。なんか上の個体と体型とか尾びれの形とか違うような・・。うーん、ようわからんけど。今後はもう少し注目してみたいと思います。