オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その7)

鈴木誉士・永野 元・小林 徹・上野紘一(2005)RAPD分析による琵琶湖産フナ属魚類の種・亜種判別およびヨシ帯に出現するフナ仔稚魚の季節変化.日本水産学会誌,71:10−15.
ナーフー(その6)の続きです。日本が世界に誇る珍淡水魚の宝庫・琵琶湖には3分類群のフナがいます。それはゲンゴロウブナとギンブナとニゴロブナです。ゲンゴロウブナは釣り用改良品種とされるヘラブナの原種として、そしてニゴロブナは鮒寿司の材料としてよく知られています。この論文ではこの3つのフナについて、RAPD分析を用いて判別ができるかどうかを確認すると同時に、野外での仔稚魚の出現パターンの違いを調べています。
結果としてこの3つのフナはRAPD分析ではきわめて明瞭に区別が可能であり、形態での区別と一致することがわかりました。そして形態とRAPD分析で同定された3つのフナの倍数性を判定すると、すべてのゲンゴロウブナとニゴロブナが2倍体、ギンブナが3倍体であることが判明しました。また、これらのフナは仔稚魚の出現パターンが異なり、特にニゴロブナが岸部の植生域に依存している傾向を明らかにしています。
日本産フナの分類を考える上で興味深いのは、これまでいくつか紹介してきたDNA分析の論文では、ギンブナとニゴロブナは遺伝的に区別ができないという結果でしたが、この論文では同じく遺伝子の特徴を見ているはずのRAPD法では明瞭に区別できるとしているところです。この違いはどこから来るのでしょうか?この研究で用いたRAPD分析では全ゲノムDNAを対象としてDNA多型を見ているので、実は数千程度の部分塩基配列を比較するような方法よりも多くの遺伝的情報を扱っているとも言えます。この3つのフナはいずれも琵琶湖周辺では古い時代からかなりの精度で形態的に区別されてきたフナですし、味も違いますし、生態も違うようです。そして本研究で示されたように、手法を変えると遺伝的にも区別ができるようです。
ということで、ミトコンドリアDNAの部分塩基配列で区別ができないからと言って、従来区別されてきたフナの種・亜種の実態がないと断言するのは早計と言えるのではないでしょうか。次はまた別の手法からフナの実態に迫った論文を見ていきたいと思います(その8へ)。