オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その10)

伊藤毅彦・藤田朝彦・細谷和海(2008)北海道勇払原野で採集された特異な形態のフナ.魚類学雑誌,55:105-109.
その9の続きです。21世紀になって国内から未知のフナ発見の報告。日本随一のコイ目魚類形態学の研究室からの論文ですので、形態についても詳細な計測・観察を行っています。このフナの特徴として著者らは比較的体高が低いこと、腸型が単純であること、体色が黄褐色〜赤褐色であること、尾柄部に黒色横帯を有すること、3倍体であること、などを挙げており、これまで日本から知られていたどのフナにも一致しない特徴であるとしています。
気になる分類についてですが、今回調べたフナにもっとも形態的に一致するのは驚くべきことにヨーロッパフナC. carassiusの一型、C. carassius morpha humilisであると述べています。日本産の3倍体フナが雑種起源であることを示唆した先行研究から、本集団がヨーロッパフナを祖先種に持つ可能性に言及するとともに、北海道在来のシベリア系一次淡水魚類の一つである可能性も十分にあると考察しています。
なんとも興味深いフナです。遺伝的な特徴について調べられていないのは残念ですが、形態的には既知の日本産フナとはかなり明確に区別できそうですし、北海道にはフクドジョウやエゾホトケドジョウといったシベリア系と称される特異な純淡水魚類が自然分布することから、今回のこのフナ類が北海道在来の未知の新フナである、という著者らの考察も十分にうなづけます。まだまだ色々いるものですね。
ということでこれでナーフー企画で予定していた論文紹介は終了です。これらの研究例を参考にして、現在までの科学的知見で日本産フナ属がどのように整理できるのかについて、考えてみたいと思います(その11最終回へ)。