オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Nakajima, J., Sato, T., Kano, Y., Huang, L., Kitamura, J., Li, J., Shimatani, Y (2013) Fishes of the East Tiaoxi River in the Zhejiang Province, China. Ichthyological Explorations of Freshwaters, 23: 327-343.
数年前に行った中国・東チャオシー川の魚類相をまとめた論文です。4万円ほど払ってオープンアクセスにしております(PDFリンク)。前にこのブログで紹介した「中国の淡水魚」をきちんと論文化したものでして、学名等は査読者とのやりとりなどの結果、今回の論文のが一応現時点での決定版となります(なのでブログ記事のと違うのも多いです)。
この論文を出したいと思った最大の動機は「これまでほとんどカラー写真が公にされていない中国の美しい淡水魚を世界に紹介したい!つーか俺の感動を知って!!」というきわめて単純なものでして、そういう意味では見どころは図ということになります。どうでしょうか?おお、こんな魚が隣の国の川にはいるのか!筑後川の魚類相と似てるようで似てない!!っていうような感動をしてもらえれば幸いです。基本的に執筆者の執筆動機はそれ以上でもそれ以下でもないのですが、結果として特にタナゴ類、ドジョウ類、ヨシノボリ類はかの国における現状での分類学的な問題が浮き彫りにできたかなと思います。
さて、こういう「自然史の記載的な研究」に対する評価は現在の生物学の中では決して高くなく、最新の解析手法や最新の推定手法等を駆使して、未解明の一般性の高い法則あるいは難題を解決するための秘策を明らかにするような新規性が高いテーマが尊ばれる傾向にあります。しかしながら、生物の多様性を正確に理解するにはまずは種同定から。単純な記載的研究もまたそれなりの価値があるものと思います。また、様々な解析をするにあたって、その学名で表した「種」はどのように定義したものなのか、をきちんと表明しておくことは後々科学的な検証を行う上でとても重要です。特にきちんとした図鑑類の整備されていない地域で生態系を扱う研究をするのであればなおのこと。
今回の魚類相調査は当時在籍していた研究室と中国の某大学の研究室との共同研究で、東チャオシー川の生態系保全に役に立つ科学的情報を得ることが目的のものでした。そういった応用的な目的の研究を行う上で、魚類の同定をどう行ったか、ということを査読された論文という形で残しておく価値は高いのではないかと思っています。また、10年後、100年後に同じような調査が行われ今回の結果と比較することによって何らかの新規性の高い生物学的発見があるかもしれません。この論文はそういう礎となるような記載論文という位置づけもありうるのかな、と書いていて思いました。ということで自分が第一著者の論文はどれもこれもとても思い入れがあるのですが、これもまた東チャオシー川の様々な風景とともに記憶に残る一作となりそうです。