Okawa, T., Kurita, Y., Kanno, K., Koyama, A., Onikura, N. (2016) Molecular analysis of the distributions of the invasive Asian clam, Corbicula fluminea (O.F. Müller, 1774), and threatened native clam, C. leana Prime, 1867, on Kyushu Island, Japan. Bio Invasions Records, 5:25–29.(PDF)
たまには論文紹介。九州におけるタイワンシジミとマシジミの状況です。ご存じのとおりタイワンシジミは外来種、マシジミは在来種ですが、この2種は容易に交雑するために、外部形態からの同定は非常に困難です。この論文では九州21地点において採集したシジミ属の遺伝子の特徴を調べて、その状況を整理しています。結果として100%マシジミの遺伝子しか確認できなかった地点はわずか1地点であり、他の20地点ではタイワンシジミが侵入していることがわかりました。非常に残念です。一方で、唯一タイワンシジミが確認されなかった地点のマシジミは、遺伝子資源として非常に重要な個体群と思われますので、早急な保全対策や系統保存が必要です。
ところでタイワンシジミは中国大陸〜台湾に分布する外来種ですが、なんでこんなに広まっているのかというと、これは食用に大量に輸入されているためです。そして各家庭で購入されたシジミが直接放流されるという問題の他に、調理の際に洗った水の中に稚貝が含まれていると、それがそのまま流出して定着するということもあるようです。加えてシジミ属は変わった受精様式をもっており、精子と卵子の核は融合せずに卵子の核は卵外に放出され、精子由来の遺伝子のみで発生が進むということが知られています。悪いことにタイワンシジミはマシジミよりも精子量が多いため、頻繁に放出された精子をマシジミがどんどん取り込んでいくことで、遺伝的にすべてタイワンシジミとなる、という仕組みがあるようです。このあたりのことは増田・内山(2004)日本産淡水貝類図鑑2(ピーシーズ)に詳しいです。
ということでとにかく、九州在来のマシジミは絶滅寸前という状況であり、とはいえこの様子ではまだ各所に在来集団がかろうじて残っている可能性はあるので、安易に買ってきたシジミを放流しないよう、注意が必要です。
福岡県内某所のシジミ属。この論文の結果からすると、おそらくこの個体もタイワンシジミとの交雑個体ということになります。