オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

佐々木浩(2016)日本のカワウソはなぜ絶滅したのか.人間文化研究所年報,27:95-111.(PDF
タイトルのとおり、詳細なデータとともに絶滅までのカワウソの国内記録をまとめ、その絶滅理由を考察した文献です。読んでみればわかるとおり、最後まで残っていた愛媛県高知県で、それでは当時どのような保全ができたのだろうかと、考えさせられます。この文献を読む限り、「普通の方法では」保全ができる状況にはなかったように思います。そして、激減していたのが明らかでありながら、本州や九州の状況はまともに記録すら残っておらず、今の価値観からすると異常なことに思えます。また、色々な事情を差し引いて、一湿地帯生物愛好家からすると、この絶滅の過程はあまりにも残念で悲しいです。
ご存じのとおり最近になって対馬でカワウソが再発見されました(リンク)。おそらく朝鮮半島などに分布するユーラシアカワウソが、自力で分布を広げて再定着しつつある状況である可能性が高いと思われますが、そうであれば当然保全対象になるでしょう。余談ですが、対馬ではかつてカワウソがいた記録があるものの、それがニホンカワウソであったかどうかは、実は確かなことがわかりません。個人的にはその生物相から、かつていたカワウソは、そもそもユーラシアカワウソだったと考えています(さらに余談ですがニホンカワウソとユーラシアカワウソは遺伝的に区別ができることが明らかにされています(リンク))。
今回の「対馬のカワウソ」再発見は、カワウソのみならず、今後の日本で生物多様性保全を進めていく上で、色々と考える材料を与えてくれる重要なテーマにもなってくるように思います。そして、そういうことを考えていく上でこの論文は必読です。