オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kamite, Y., Nakajima, J. (2017) Notes on the Stenelmis hisamatsui species group in Japan, with description of a new species from Kume-jima, Ryukyu Islands (Coleoptera: Elmidae). Koleopterologische Rundschau, 87:253–273.
沖縄県久米島から新種クメジマアシナガミゾドロムシStenelmis hikidai Kamite & Nakajima, 2017を記載しました。実はその発見は2003年で、ずいぶんと時間があいてしまいましたが、名前をつけることができて良かったです。私は2005年に初めて採りましたが、これは違う!とその醸し出す雰囲気にたいそう驚いた記憶があります。
本論文ではさらに「hisamatsui group」のアカハラアシナガミゾドロムシS. hisamatsui、イブシアシナガドロムシS. nipponica、ヤエヤマアシナガミゾドロムシS. ishiharai、ヨナグニアシナガドロムシS. aritaiについて、再記載を行っています。いずれも大型のかっこいいヒメドロムシらしいヒメドロムシですね。今回の検索を使えば区別は容易かと思いますが、そもそも基本的に島ごとに棲んでいる種類が違うので分布からもある程度あたりがつきます。
奄美群島から沖縄諸島まで広くアカハラアシナガミゾドロムシが分布する一方で、久米島にポツンと固有の本種が分布するのは、生物地理学的に興味深いところです。久米島にはご存じのとおり、クメジマボタルやキクザトサワヘビといった固有の水生動物が他にも分布しており、久米島の地史を解明する上で、本種も重要なカギとなってくるでしょう。遺伝的な特徴についても調べられているそうなので、こちらはそのうち別途発表されると思います。
それからもう一つ、本グループで気になるのが、西表島におけるヨナグニアシナガとヤエヤマアシナガの「共存」です。本文でもちらりと書きましたが、成虫の出現時期はヨナグニアシナガが晩秋から春、ヤエヤマアシナガが春から夏というような傾向があります。おそらく成虫の寿命が長いためにはっきりしないのですが、発生時期をずらして共存している可能性もあり、このあたり生活史の詳しい研究がまたれます。また、そうすると他の島ではそういうことはないのか、という疑問も生じます。

遺伝的にはこれらグループがひとまとまりになることは確認できているので、今回名前がついたことを契機に生活史や形態、あわせてこの群の進化、さらには琉球列島の地史についての研究なども進展することを期待したいです。

ということでクメジマアシナガミゾドロムシStenelmis hikidai Kamite & Nakajima, 2017の貴重な生体写真を大公開!赤みがかった黒色と重厚な形が魅力の渋いヒメドロです。
余談ですが今回の論文はイトコ氏との初共著論文ということもあり、その点でもうれしいです。我ら一族の足跡をヒメドロ界に刻むことができました。どうもありがとうございました!