オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

書評

ウラケン・ボルボックス(絵と文)・五箇公一(監修)「侵略!外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲」PARCO出版

publishing.parco.jp

侵略性のある外来種は生態系のみならず、農林水産業や公衆衛生、文化財などあらゆる分野に問題を与えており、現在の日本においても多くの「害」を引き起こしています。したがって、外来種問題は国内において早急に対策・解決すべき社会的な重要課題の一つと言えます。しかしながら外来生物法ができたのが2005年、生態系被害防止外来種リストと外来種被害防止行動計画ができたのが2015年ということで、社会的課題として認識されたのがごく最近ということもあり、まだまだ正しい知識の普及が不足しており誤解も蔓延している状況にあります。加えて、即刻人命に悪影響を及ぼすという類の問題ではないこと(一部そういう外来種もいますが)、また課題解決にはその生き物を「駆除」する(すなわち命を奪う)必要があること、などがより問題を複雑混沌怪奇なものにしていると思われます。なんかこうそのあたり、これとりあえず読んでおいて!的な外来種本ないかなと思っていたここ数年ですが、ついにこれは良いというものが出ました。それがこの本です。

私も常々講演会や観察会などで言っている外来種問題を考える上で必須の基本知識、「外来種は悪くない、悪いのは人間」「外来種に罪はないが、害はある」「対策すべきはすべての外来種ではなく、侵略性のある外来種に限る」「外来種対策は持続的な人間社会構築のために必要があってしていることである」「侵略性のある外来種はどれも生物としては魅力的でかっこいいすごい生物ばかり」「じゃあどうしよう?」というあたり、このあたりどうしても伝わらないことがあるのですが、この本ではそのあたりが非常にわかりやすく押しつけがましくなく、なんとなくすっと「感覚的に」理解できます。これだ、と読んで強く思いました。

本の構成として部分部分に法令や外来種に関する専門的な(でもわかりやすい)概説があり、他は侵略性のある外来種各種(動物73種+植物3種)について1~2ページでイラストを主体に解説してあります。なんというか非常にスタンスが中立的で良く、適度に肩の力が抜けながらも抑えるべき点は外していないということで、楽しみながら外来種問題が理解でき、総じて腑に落ちます。あと総ルビなのでお子さんでも読めます。はじめから順に読まなくても、気になった外来種各種のページからぱらぱら読んでも楽しめる構成です。あと、カバーをめくるともっとも問題のあるとある生物の解説も出てきます。小ネタも多く遊び心も満載です。

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これを書かれたウラケンさんの本職は普通のちょっと生き物好きなイラストレーターで、特別な生き物オタクではないそうですが、そうした立ち位置がちょうどよかったのかもしれません。こちらにどのような経緯で本書ができたかをウラケンさん自ら解説した記事がありました↓

irorio.jp

これを読むとなるほど、本書の空気感がこうなったことがよく理解できます。私のような生き物オタクが書くと、ついつい肩に力が入って押しつけがましくなりがちです。また、監修として国立環境研究所の五箇公一先生が入っているのは安心感があります。五箇先生は言わずと知れた、国内の外来種問題の第一人者です。内容に大きな問題が見当たらないのも、このあたりしっかりつめたことが理由かもしれません。

昨今、外来種問題の本質について全く勉強せずに「俺の意見や妄想」を垂れ流した悪書も散見されます(例えば・・)。しかし本書はそもそも外来種問題とはどういったものか、ということを確かな最新の科学的知見に基づき、感覚的に理解できる良書と思いました。この本に書いてあることを多くの人が理解して、新しい不幸な外来種が少しでも減ることを願っています。ということでもうとりあえず一家に一冊レベルです。環境行政にかかわっている人、保全にかかわっている人、環境教育にかかわっている人、環境コンサルティング会社の人、ただの生き物オタクの人など、色々な分野の方におすすめです。児童書という設定とのことですが、これはむしろ大人にも大いに読んで欲しい内容です。

大きな間違いはありませんが気になった点以下。

・P86 オオクチバスのイラストの中の「希少在来種のみなさん」の中にザリガニっぽい生き物がいるのですが、おそらく二ホンザリガニと出会うことはないので、ここはほかの生き物が良かったかも(特にアメリカザリガニが在来種と思っている人はかなり多いので)。

・P93 タイリクバラタナゴの雄の腹鰭の白線はがっつり描いてよかったと思います。あとできれば側線鱗も(7枚くらい)。

・P117 クビアカツヤカミキリは2018年に特定外来生物になっていますね。なお本書では特定外来生物かどうかはページの左上か右上にアイコンで示されていて、これも便利です。

まあたいした問題ではありません。おすすめです!!