オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Lopes-Lima, M. ほか(2020)Freshwater mussels (Bivalvia: Unionidae) from the rising sun (Far East Asia): Phylogeny, systematics, and distribution. Molecular Phylogenetics and Evolution, 146: https://doi.org/10.1016/j.ympev.2020.106755

www.sciencedirect.com

極東アジア地域のイシガイ類についての網羅的な分子系統地理&分類に関する論文です。非常に多くの新知見が含まれた超大作です(著者も36人)。本論文では日本産種を含む4種が新種記載されています。内容は膨大なので興味のあるところだけ、というか九州産についてメモです。

九州産のイシガイ類は現時点では10種ということになりそうです。以下その10種と学名。
・フネドブガイAnemina arcaeformis (Heude, 1877)
・和名なし(=旧タガイ) Beringiana fukuharai Sano, Hattori & Kondo, 2020
・ドブガイモドキ Pletholophus reinianus (Martens, 1875)
・ヌマガイ Sinanodonta lauta (Martens, 1877)
・キュウシュウササノハガイ Lanceolaria kihirai Kondo and Hattori, 2019
・ニセマツカサガイ Inversiunio yanagawensis (Kondo, 1982)
・和名なし(=旧イシガイ) Nodularia douglasiae (Griffith and Pidgeon,
1833)
・オバエボシガイ Inversidens brandtii (Kobelt, 1879)
カタハガイ Obovalis omiensis (Heimburg, 1884)
・マツカサガイ Pronodularia japanensis  (Lea, 1859)⁠

多少名前は変わりましたが、ひとまず認識していた体系に変化はないようで、安心しました。和名なしのものは旧タガイと旧イシガイがそれぞれ細分化(=適切な形に整理)という理解で良いと思います。

旧タガイ類は本論文では4種に区別されることが示されていて、北海道にB. beringiana(チシマドブガイ)、東北地方から中国地方にかけての本州日本海側にB. gosannensis(今回新種記載)、東北地方から関東地方にかけての本州太平洋側にB. japonica(タガイ)、本州(近畿・北陸以西)・四国・九州にB. fukuharai(今回新種記載)が自然分布するようです。それから旧イシガイは主に東日本にN. nipponensis、西日本にN. douglasiaeが自然分布するようです。このうち前者は日本固有種で、後者は朝鮮半島から中国大陸に広く分布するようです。これらの分布様式はいくつかの純淡水魚類の知見とも一致しますね。

それから在来かどうかよくわかっていなかったドブガイモドキですが、日本列島産と中国大陸産には遺伝的な違いがあり、本論文では日本列島産は在来の独立種と判断しています。それとマツカサガイも明確に3集団に区別できるようで、本論文では分類学的決定はなされていませんが、今後何らかの分類体系の変更がありそうです。

ということで形態での区別が難しいことから研究が遅れていたイシガイ類ですが、やはり、人類が予想していた以上に多様性をもった魅力的な生物であることがわかってきました。一方でその多くは絶滅に瀕しています。乱獲の問題もあります。生息環境(主に水路)の破壊も進んでいます。水系ごとにきちんと意識して保全していく必要があります。貴重な湿地帯生物として、もっと大事にしていかなくてはいけません。

 

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九州某所のドブガイモドキです。この論文によれば関東、近畿、九州北部、石垣島の4地域が分布域になっていますが、どれも在来・・ではないですよね。石垣島のはやっぱり外来でしょうか?九州北部は?誰か教えてください・・