オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

魚類学雑誌最新号の会員通信に正式に記事が出たので、こちらにも書いておきます。

今年の日本魚類学会自然保護委員会の市民公開講座観賞魚としての日本産淡水魚の流通・飼育の現状と課題」は来年に延期となりました。今回は琵琶湖博物館の金尾さんと私との共同企画として進めており、記事にある通り、金尾さんと私の他に、環境省さん、自然環境研究センターさん、オッケーフィッシュファームさん、アクアライフさんからも話題提供を行ってもらい、公開で議論する予定でした。趣旨に賛同していただいた講演予定の皆様にはお礼申し上げるとともに、延期となり申し訳なく思っています。また、それに向けて色々と準備・調整してきたので、個人的にもたいへん残念です。しかし止むをえません。

以下、今回の公開講座で語る予定だった個人的な思いを書いておきます。もともとは某先生から勧められた企画ではあったのですが、ああやりたいなと思った大きな理由は国策により近年指定種が増えつつある種の保存法に基づく国内希少野生動植物種のことと、観賞魚飼育趣味のことで、色々と考えているところが多くあったからです。特に観賞魚として高い人気があり、多くの業者や愛好家において飼育繁殖が継続していたセボシタビラが今年指定されたことは、大きな波紋を呼びました。指定により採集、(新規の)飼育、譲渡、売買、すべてが禁止となり、違反すれば犯罪という状況になってしまったからです。

この20年間九州各地で2000地点以上の調査を行ってきましたが、セボシタビラの急速な激減状況は突出しており、その中で有効な保全対策がまったく打てなかったことを考えれば国内希少野生動植物種指定は妥当であり、これが生息地の保全に確実につながると考えています。私は九州の一研究者として環境省からのヒアリングを受けており、そのデータと見解を提供しました。また同時に特定第一種(=指定業者のみが増殖した個体に限り売買可能)に合致するのではないかということは、当初から環境省に対して意見していました。多くの愛好家が飼育していることは知っていましたし、野外採集によらない養殖個体がかなり流通していることも見聞きしていたからです。そしてそれを受けて、環境省は養殖・販売している業者にヒアリングを行ったということも聞いていました。しかしながら結局特定第一種への指定ではなく、本指定、またパブリックコメントにおいてその件についての質問が来ていたにも関わらず、環境省からの回答は非常に不誠実という印象を受けました。そのため、多くの飼育している愛好家、養殖販売している業者からの強い反発と混乱を招く結果となりました。そしてまた、最終決定時の議論も含めて、情報提供した私の方にも明確な説明は行われていません。

これまで色々な保全の現場にかかわってきましたが、特に種の保存法指定種の保全は、域外・域内保全の両輪で進めることが重要で、さらに行政、研究者、愛好家が協力しなければうまくいきません。このままでは守れるものも守れなくなるという危惧があります。そうした中、愛好家をないがしろにするような形の今回の指定は非常に問題であり、その根源には、観賞魚飼育趣味に対する無理解があるのではないかと個人的には思っています。私は愛好家からスタートして、研究者となり、いまは行政研究機関に所属しています。それぞれの立場や思いもある程度は理解しているつもりです。そこで今回企画していた公開講座がこうした課題共有の場となり、各立場の「個人的な思い」に少しでも沿った形で保全を進めるにはどうすればよいのか、ということを議論する場になればと思っていました。

種の保存法は指定して終わりではありません。指定により実行力のある保全対策を進め、個体数を増加して絶滅の危機を回避し、指定から外すことを目指す必要があります。またその過程で特定第一種等への移行も十分に可能です。セボシタビラの特定第一種あるいは二種への移行は、私自身は今後も推していきます。現時点での私の明確な立場です。

私がしたいのは、身に回りにいる絶滅しそうな淡水魚(や水生昆虫)が一種でも一産地でも、絶滅しないようにしたいというだけです。この20年間で、九州だけでも、かなりの産地で多くの湿地帯生物が絶滅してしまいました。非常に残念で悲しいです。本当に、なんとかしたいものです。保全は一人ではできないということも事実ですが、必ず仲良くする必要もないのです。ただ一点だけでも思いが共有できれば、協力できるところだけでも協力して、なんとか絶滅させずに、捕まえたり飼育したり研究したり食べたりということが、いつまでもできるような世の中になればと思っています。そしてそのためには種の保存法が真に種の保存につながる形になる必要があります。今回の公開講座の延期は残念ですが、問題はこの先も続くものですので、なんとか同じ形で来年度開催できるよう努力していきます。

 

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 繁殖期のセボシタビラのオスです。私は幼少時から淡水魚飼育を趣味としており、中高生のころは水槽10本前後を常時維持して自ら採集した淡水魚30種前後を飼育していました。しかしタナゴの仲間は当時すでに関東南部ではほとんど絶滅しており、タイリクバラタナゴ以外に出会うことはありませんでした。それで大学生になって九州に来て、はじめて採ったセボシタビラの美しい婚姻色にものすごく感動したのを今でも覚えています。この感動を次世代に引き継ぎたいと思っています。野外で絶滅させないということを大前提として、何をどのようにしていくのが良いのか、実は非常に難しい問題は多々あるのですが、それでもなんとかしないといけません。

おまけ

種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されている日本産淡水魚は現在(2020年時点)以下の10種となっています。

ミヤコタナゴ(1994年)

イタセンパラ(1995年)

スイゲンゼニタナゴ(2002年)

アユモドキ(2004年)

ハカタスジシマドジョウ(2019年)

タンゴスジシマドジョウ(2019年)

コシノハゼ(2019年)

セボシタビラ(2020年)

アリアケヒメシラウオ(2020年)

カワバタモロコ(2020年)※特定第二種(売買のみ禁止、個人的な採集飼育は可)

地域でみると関東1、東海2、北陸1、関西4、山陽3、九州4となっています(重複あり)。もともとの在来種数を考えれば地域的な偏りもなく、各種の希少性や危機的状況などをみればおおむね妥当な指定状況と私は思います。最近九州の指定種が多いという声もききますが、事実そうですが、実はこれをみればわかるとおりこれまで「指定すべき種の指定がとまっていた」「それが動き出した」というのが実情です。なんでこれまで止まっていて、今動き出したのかについては、まあ色々知っていますがここではだまっておきます。大事なのは今後どのような方法で指定から外れるように増やすかという具体的な計画です