特定外来生物アライグマが全国的に増加していて問題になっています。ということで最近に読んだアライグマ関連の論文で気になるもの2つ、メモしておきます。
Doi, K., Kono, M., Kato, T., Hayama, S. (2021) Ecological traps and boosters of ixodid ticks: The differing ecological roles of two sympatric introduced mammals. Ticks and Tick-borne Diseases, 12: 101687 (LINK)
日本では外来種であるハクビシンとアライグマについて、関東地方においてそのマダニ類の付着状況を調べたところ、アライグマの方がより多くのマダニ類の宿主となっていたことを報告した論文。ハクビシンがまめにマダニケアをするのに比べて、アライグマはあまりマダニケアをしないことが理由と考えられ、アライグマの増加はマダニの増加を引き起こす可能性を指摘しています。
Doi, K., Kato, T., Tabata, I., Hayama, S. (2021) Mapping the potential distribution of ticks in the western Kanto Region, Japan: Predictions based on land-use, climate, and wildlife. Insects, 12: 10.3390/insects12121095 (LINK)
6種のマダニ類の潜在的な分布様式について、関東地方において土地利用、気候条件、宿主となる5種の哺乳類分布(シカ、イノシシ、アライグマ、タヌキ、ハクビシン)との関係を調べたところ、森林の連続性がマダニ類の分布様式決定において重要であることに加えて、5種のマダニ類についてはアライグマの分布が関係していることを報告した論文。アライグマが森林から住宅地にマダニ類を運搬する可能性を指摘しています。
ご存じのとおり、マダニ類はいくつかの致死的な人獣共通感染症を媒介することで知られています。国立感染症研究所の解説↓
私が住んでいる福岡県においても、SFTSや日本紅斑熱の報告は毎年続いている状況です。これらのマダニ類が媒介する人獣共通感染症は日本に古くからあるもので、イノシシやシカを宿主として連綿とそのウイルスは存在し続けてきたものと思われます。近年、生物多様性の破壊が進み生態系のバランスが崩れて、シカやイノシシの増加が報告されています。宿主が増えれば当然寄生者であるマダニ類も増え、マダニ類が増えればこうした感染症をもつ個体も増え、そうすると人と感染マダニ類が出会う機会も増えることが予想されます。しかしシカもイノシシも在来種であることから、古くからの「付き合い方」をしていればそれほど対応困難ということはないでしょう。
しかしながら、そうしたルールを一変させる状況を作り出すのが、侵略的外来種であるアライグマです。上記の2つの論文から、アライグマはマダニ類をより増加させる可能性があること、林域から都市域にマダニ類を大量に持ち込む可能性があること、が見えてきます。これまで日本人が行ってきた、野生動物やマダニ類に対する「付き合い方」がまったく通用しなくなる、ということです。シカやイノシシは屋根裏や床下にはやってきませんが、アライグマはそうしたところにやってきて、マダニ類を落としていくということです。そういう事態に対応した暮らしを我々は持っていません。
アライグマは外来生物法に基づく特定外来性生物に指定されており、侵略的な外来種が有する「3つの害(生態系影響、農林水産被害、人の健康被害)」をコンプリートする稀有な存在です。アライグマ増加の報告はここ数年ずっと続いており、対策が上手くいっている様子はありません。動物は自力で移動し、勝手に増えます。つまり「点」での場当たり的な対策は効果が低く、「面」での計画的な対策をとる必要があります。アライグマ対策に優先的に公的資金を投じる根拠、科学的知見はもう十分にあると思います。ぜひとも偉い人にはここで思い切った判断を下して欲しいものです。
余談ですが、私が長らくかかわっている湿地ビオトープでもアライグマの足跡をちらほら見かけており、カスミサンショウウオやニホンアカガエルが食べられているのではないかと疑っています。また、職場近くではアライグマに頭部や手脚を食いちぎられたと思われるニホンイシガメの死体も発見されています。なんとかしてほしいです。