オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

今日、庭の湿地帯にニューカマーを発見しました。

ヒゲナガハナノミ属の幼虫です!幼虫は水生で、尾端を水面上に出して呼吸することができます。低山地から平地の浅い泥底の環境にみられます。九州ではヒゲナガハナノミとヒゴヒゲナガハナノミの2種が記録されており、後者は幼虫の記載がされていないのでこれがどちらかはわかりません。飼育して成虫にしてみようか悩んでいます。

 

日記

なんか色々とやることが多いですが、研究もぼちぼち進めています。今日は小さな巻貝の標本作成に挑戦してみました。

対象はこちら、九州固有の湿地帯生物・オンセンゴマツボです。なんと水温40度を超える環境にも生息可能という変わった巻貝です。本種は大分県希少野生動植物の保護に関する条例の指定種となっており、無許可での採集・標本作成は禁止されていますが、NPO法人北九州・魚部として正式に大分県から許可をとり、今年から調査研究を進めています。

ということで今日は標本作成をしてみました。貝類のプロ中のプロである岡山大学のFUKUDA先生から色々とご指導いただき、適切な加熱時間&標本作成法をご教示いただいたので、それに従って行いました。上記は殻+蓋+軟体部+切除した筋肉という構成です。このうち、殻と蓋は乾燥標本に、軟体部は5%ホルマリン固定して液浸標本とし、形態学的な研究に用います。切除した筋肉は無水エタノール固定して遺伝学的な研究に用います。上の写真はうまくいった個体ですが、うまくいかなかった個体もありました。それも無駄にならないよう、別の方法で標本化しました。貴重な生物ですので、きちんとした標本にして、研究に活用していきます。

 

日記

秋も終わりかかっています。会議とか調査とかしています。最近は諸事情あってミズカメムシの資料を整理しています。ミズカメムシは若干知名度が低い水面性のカメムシの仲間で、福岡県ではこれまでに4種の記録があります。2009年に書いた「福岡県の水生昆虫図鑑」にはミズカメムシ科が載っていないのですが、それは私に知識がなかったためです。しかしその後は修行を積み、ネイチャーガイド日本の水生昆虫ではきちんと全種紹介し、昨年にはキタミズカメムシ九州初記録論文を発表するなど(伊藤・中島,2021)、着実に勉強を続けています。ということで福岡県で記録のある4種を紹介します。写真はすべて福岡県産です。(※折々追記しています)

 

ミズカメムシMesovelia vittigera

ザ・ミズカメムシの名に恥じず、本科を代表する種として国内各地に普通です。と、色々なところで言われているものの、実は東日本ではかなり珍しいのではないかとか、南西諸島産は本当にこの種なのかとか、地味に闇の残る種です。きわめて広い分布域をもつ種で、九州ではため池や水田など平野部を中心にみられます。写真の個体は暗色ですが、もう少し緑色味の強い個体もいます。体長2.3-3.4 mm。

 

ムモンミズカメムシMesovelia miyamotoi

水生植物が豊富なため池などに生息し、各地に普通です。鮮やかな緑色とやや大きな体から、日本産ミズカメムシの中ではもっとも「映える」かっこいい種です。体長2.7-3.4 mm。

 

マダラミズカメムシ Mesovelia japonica

林内の池や渓流沿いなどの薄暗い環境を好みます。やや小型で独特の模様があり個性的な種です。各地に普通と思われますが、あまり気づかれていない可能性があります。なお、本種はMesovelia horvathiのシノニムという見解もありますが、この見解は要検討という見解もあり、地理分布や本種の移動能力などから個人的にはjaponicaを使用していますが、今後はやっぱりhorvathiが正しいということになるかもしれませんので、注意が必要です。あと本土産と南西諸島産がそもそも同じなのかという点も。体長2.1-2.8 mm。

 

キタミズカメムシMesovelia egorovi

汽水性というこれまた個性的なミズカメムシです。海岸沿いのヨシ等が豊富な池に生息し、少々塩分が入っている環境を好みます。やや大型で暗色な上になんとなく固いというか光沢のある独特な質感をもちますが、ミズカメムシに似ているので同定は慎重にした方が良いでしょう。南西諸島からも記録されていますが、果たして同種なのか。そもそもミズカメムシとかなり似ているのではないか、など、微妙に謎が残っています。ただし九州産のミズカメムシとキタミズカメムシは遺伝子の特徴が異なり区別できます(オイカワ丸,未発表)。体長2.4-3.7 mm。

 

この他にヘリグロミズカメムシとウミミズカメムシも県内にいそうなので探しているのですが、今のところ見つかっていません。もしそれらしい情報があれば教えて下さい。なおヘリグロミズカメムシは北方系の種で、まだ九州からの記録もないようです。

 

ミズカメムシ類は成虫になっても翅がない無翅型が多いですが、このような長翅型も稀にみられます(写真はムモンミズカメムシ)。なお「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」にはキタミズカメムシについて「無翅型のみが知られる」と書きましたが、その後なんと長翅型がみつかり記録されました(金田・渡部,2021)。超レアです。ミズカメムシ、ムモン、マダラについても長翅型は珍しいものの、キタミズほどではなく、そこそこ見かけます。長翅型の出現に季節性があるのかはよくわかりませんが、これらの種については秋によく見かけるような気もします。こうしたレア型を探すなどの高度な楽しみ方もあります。ミズカメムシの仲間は意外に身近な水辺にいますので、ぜひ探してみてください。

 

同定については文一総合出版の「タガメ・ミズムシ・アメンボ ハンドブック」がわかりやすいです→(リンク

もちろん「ネイチャーガイド日本の水生昆虫(リンク)」にも全種掲載しています。ただページの関係であまり詳しい同定法は書けませんでした。。2冊あわせて読むとだいぶ理解が進むと思います。

 

論文

川と海の生態系のつながりをまた一つ、明らかにした論文です。プレスリリース記事が分かりやすいです↓

www.kyoto-u.ac.jp

このような研究成果が出るたびに思いますが、やはりどう考えてもセボシタビラの保全はアサリの保全にもつながっています。一つ一つの希少種を守ることは我々の水産資源を守ることにもつながっています。

メモ

ちょっと質問があったので調べたことのメモ二つ。

 

佐賀県内水面漁業調整規則」
https://sy.pref.saga.lg.jp/kenseijoho/jorei/reiki_int/reiki_honbun/q201RG00000769.html


「第40条 次に掲げる水産動物は、知事の許可を受けなければ、これを移植してはならない。(1) ニジマス (2) ワカサギ (3) ソウギョ

 

「海や川などで遊漁を楽しむすべての方へ(佐賀県農林水産部水産課)」

https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00350576/index.html

佐賀県にはヤマメなどの固有種が生息している河川区域があります。放流の際には、天然魚と放流魚の遺伝子が混ざってしまわないように配慮をお願いします。」

 

佐賀県は侵略的外来種対策については九州各県の中でもかなり先進的で、以下のように条例を制定して指定された外来種については放流(採捕時のその場への再放流も含む)を禁止していたり、販売者はその取り扱いについて購入者に説明することを求めたりしています(罰則はありませんが)。

www.pref.saga.lg.jp

水産分野においてもこうしたことがきちんと出されているのは重要です。むやみな放流は自然資源を損なうということがよく理解されていると思います。

 

日記

某所で行われたカスミサンショウウオの産卵場所掘削作業をお手伝いしてきました。

しかし今年は水が少ない・・雨が降ってくれないと産卵場所になりません。頼みます。この周辺では他の産地がみつかっておらず、かなり孤立した個体群と思われ、手を入れ続けないと絶滅してしまうでしょう。

 

同所のこの春の様子。水がたまっています。

例年はこのように卵のうを見ることができます。ただ、やはり毎年水は少なくて、上陸まで行かない年もあるそうです。ここはもともと水田だった場所で、上の小河川から水をとる構造があるようで、今後はこの取水の復活も考えていかなくてはならないでしょう。

カスミサンショウウオは干上がりやすい不安定な水たまりに産卵するのが大好きなので、干上がって死んでしまうことは生活史の中に織り込み済みです。したがって、いかに干上がりそうな湿地帯を干上がらないようにつくるか、というところが重要になってきます。

福岡県内ではおよそ2~3月頃が産卵期で、その後6月くらいまでには成長して上陸します。上陸した個体は完全な陸生で、隣接する山林の落ち葉下や土中などで成長します。成体は10年以上生存して何回も産卵し、条件の良い年には大量の幼生が成長して個体数が増加しますが、条件が悪い年は繁殖に失敗することも少なくないと思われます。不安定な水たまりへの産卵は干上がりの危険性がありますが、一方で捕食者が少ないという利点もあります。

そんな生活史特性をもっていることから、個体群がある程度以上小さくなってしまうとなかなか回復しませんし、近年では外来種のアライグマに成体が捕食されてしまうという事態も報告されており、受難が続いています。かつては人里で長らく共存してきた湿地帯生物です。なんとか努力して絶滅しないようつなげていきたいものです。