オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Kim, I.S. (2009) A review of the spined loaches, family Cobitidae (Cypriniformes) in Korea. Korean Journal of Ichthyology, 21 (Suppl.): 7-28.
昨年の春に発表された韓国ドジョウ科のレビュー論文の紹介です。今シマドジョウ類を手がけているので、お勉強ついでに覚え書き。
Cobitis属(4種)

C. choii Kim & Son, 1984
Cobitis属として記載された後に、Nalbant(1993)においてIksookimia属に移されて、今回の論文で再びCobitis属に移動。模式産地はGeum River(錦江)。いわゆるミホシマドジョウ。

C. hankugensis Kim, Park & Nalbant, 2003
古くはC. taenia、ついでC. sinensisとして扱われていた種。またKim et al.(1999)においてC. laoensisとして記載された種もこれに含まれる。模式産地はNakdong River(洛東江)。

C. lutheri Rendahl, 1935
模式産地はChanka Lake Basinと記されているので、いわゆるKhanka Lake(ハンカ湖=アムール川水系)。韓国のこの種については模式産地から飛び地的な分布をしており、おそらく真のlutheriではなさそうという話をそこかしこで聞いています。今後詳細な研究がなされることでしょう。

C. tetralineata Kim, Park & Nalbant, 1999
一時期C. striataとされていた種。真のstriataは日本のスジシマドジョウ中型種瀬戸内型なので、遺伝的にも明らかに区別できる別種です。模式産地はSeomjin River(蟾津江)。

Iksookimia属(6種)

I. hugowolfeldi Nalbant, 1993
I. longicorpaから分離して記載された種。

I. koreensis (Kim, 1975)
当初Cobitisで記載されていた種で、Nalbant (1993)によってIksookimia属の模式種とされた種。いわゆるコウライシマドジョウ。

I. longicorpa (Kim, Choi & Nalbant, 1976)
当初Cobitis longicorpusとして記載された種。いわゆるナガシマドジョウ。

I. pacifica (Kim, Park & Nalbant, 1999)
1980年にCobitis taenia granoeiとして記録された後、1993年にはC. melanoleucaとして記録された種。その後Cobitis pacificaとして新種記載されて、今回の論文でIksookimia属へ移動。いわゆるキタシマドジョウ。

I. pumila (Kim & Lee, 1987)
当初Cobitis koreensis pumilaとして記載された種。Nalbant(1993)により亜種から種に昇格。その後Iksookimia属に移動。ダム建設により危機的な状況らしい。いわゆるプアンシマドジョウ。

I. yongdokensis Kim & Park, 1997
I. longicorpaと良く似た種であるが、骨質盤の形状や染色体数が2n=100(すなわち4倍体)であることなどにより区別できるとのこと。

Kichulchoia属(2種)

K. brevifasciata (Kim & Lee, 1995)
当初Niwaella属として記載された種。Kim et al. (1997)において新属Choiaをたてて移動したが、後にホモニムであることが判明し、Kim et al. (1999)において新属Kichulchoiaをたてて、改めてその模式種となる。ちなみに調べたところChoia属は化石のカイメンの一種らしい。

K. multifasciata (Wakiya & Mori, 1929)
当初Cobitisとして記載された後に、Sawada & Kim (1977)においてNiwaella属に移動。今回の論文で形態的特徴からKichulchoia属に移動する。遺伝的にも日本のアジメドジョウNiwaella delicataとはだいぶ異なるようです。いわゆるヨコジマドジョウとして日本でも古くから有名な種。

Koreocobitis属(2種)

K. naktongensis Kim, Park & Nalbant, 2000
Cobitis rotundicaudataからNakdongRiver(洛東江)のものが分離して記載された種。

K. rotundicaudata (Wakiya & Mori, 1929)
当初Cobitis属として記載され、その後Kim et al. (1997)においてKoreocobitis属の模式種として再記載。いわゆるハナジロドジョウ。

Misgrunus属(2種)

M. anguillicaudatus (Cantor, 1842)
ドジョウ。模式産地はChusan。ということは中国のZhoushanなので現在の浙江省舟山市?そういえば記載論文を見たことがなかったです・・。舟山って島がたくさんあるところですよね。

M. mizolepis Gunther, 1888
カラドジョウ。模式産地はYangtze RiverのKiu-kiangということなので九江市付近の長江でしょうか。カラドジョウの学名についてはParamisgrunus dabryanusを使うことが多いのですが、本論文ではVasil'eva(2001)に従ってこちらの学名を使用したとしています。ただ本文中でも指摘されていますが、きちんと検討する必要がありそうです。

この論文では過去に自らが移動した属などについても、最新の遺伝子による解析結果を踏まえて、再度形態や模様の検討を行って、過去に囚われず整合性のある形できちんと整理整頓しています。特にCobitis、Iksookimia、Kichulchoiaの3属はきわめて近縁なグループだとは思いますが、うまく属の定義をしてあり、少なくとも韓国産についてはかなり説得力のある形でまとめていると思います。日本も早く追いつかなくては・・