オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

近藤高貴・田部雅昭・福原修一(2011)ヌマガイとタガイの殻形態による判別.ちりぼたん,41:84-88.
下の方でヌマガイ・タガイの話が出ていたのでその文献の紹介。日本ではドブガイ属に3種が知られていますが、そのうちヌマガイAnodonta lautaとタガイA. japonicaは北海道から九州まで広く分布していてよく見られる種類です。この2種はアイソザイム分析、遺伝子分析、グロキディウム幼生の形態などから完全に別種であることがわかっていますが、一時期は同種内の変異としてドブガイ一種にまとめられていた時期もあるほど殻形態での同定が難しいことでも知られています。私もたいていドブガイ属の一種としています。
この論文では滋賀県でヌマガイとタガイが同所的にいる場所の個体をアイソザイム分析を使って種同定し、それぞれ殻長・殻高・殻幅を計測し、この値を説明変数として2種の判別分析を行い、判別関数を作成しています。そして、この判別関数を用いて全国の28地点において採集した724個体(こちらもアイソザイムで種同定済)について、殻形態からのヌマガイ・タガイの判別率を調べたという力作です。
結果として多くの地域のものについて8〜9割の判別率を示し、基本的にはヌマガイが殻長に対して殻高と殻幅が大きく、タガイは小さいという外部形態の特徴から種同定が可能であるとわかりました。ただ地域によってはかなり低い判別率の場所もあり、結局アイソザイムや繁殖期などの調査をあわせないと確実な種同定はできないと結論づけています。
この判別関数を用いれば、少なくとも典型的な個体はほぼ100%殻だけで種同定できるわけで、その基準から外れる微妙な個体だけを詳細な分析に回すということをすれば、種同定の手間も大きく省けるでしょう。
ちなみに著者の近藤先生は日本産イシガイ類図説もウェブ上に作成しています→リンク。印刷版もあるので興味のある方は入手すべしです。
私も個人的にイシガイ類は大好きで、九州には種数はあまりいないですが分布状況など不明な点も多く、分布調査は宝探しのようで楽しいです。九州の分布情報も収集中ですので、見かけたらご一報下さるとありがたいです。ただ近年個体数が減っている種類も多いので、もし楽園を発見しても乱獲や生息地の公開にはご注意下さい。