オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その2)

ナーフー(その1)の続きです。フナ論文を読み進めるにおいて、そもそも世界で学名が有効なフナ属は何種とされているのか。そして日本に関係するフナは「学名的には」何種いることになっているのか、を知っておくことは重要です。魚類の学名データベースといえばFish Base(リンク)とCatalog of Fishes(リンク)が双璧でしょうか。ということでさっそく安直にCarassiusなんて検索してみると、有効名として下記のものが出てきます。
まずはFish Base
Carassius carassius (Linnaeus, 1758)
Carassius auratus auratus (Linnaeus, 1758)
Carassius auratus buergeri Temminck & Schlegel, 1846 ※オオキンブナ
Carassius auratus grandoculis Temminck & Schlegel, 1846 ※ニゴロブナ
Carassius auratus langsdorfii Temminck & Schlegel, 1846 ※ギンブナ
Carassius auratus argenteaphthalmus Nguyen, 2001
Carassius gibelio (Bloch, 1782)
Carassius cuvieri Temminck & Schlegel, 1846 ※ゲンゴロウブナ
フナ属は4種4亜種(C. auratusは5亜種に区別)。日本産については魚類検索などでお馴染みの分類体系ですね。

一方のCatalog of Fishes
Carassius carassius (Linnaeus, 1758)
Carassius auratus (Linnaeus, 1758) ※buergeriとgrandoculisはここに含まれる。
Carassius gibelio (Bloch, 1782)
Carassius langsdorfii Temminck & Schlegel, 1846 ※ギンブナ?
Carassius cuvieri Temminck & Schlegel, 1846 ※ゲンゴロウブナ
フナ属は5種。ちょっと違和感。これを見ると、実はナーフー(その1)で紹介した論文はこちらの分類体系に沿っており、これに合うように遺伝子データを集めて、解析したのだろうことがわかります。
ということで両データベースにおいて日本に関連するものとして一致しているのはゲンゴロウブナCarassius cuvieriが独立種であるということと、種か亜種か置いておいてlangsdorfiiの存在も分類群として認められていること、それからいわゆる亜種としてのオオキンブナやニゴロブナが認められるかどうか置いておいて、種としてのC. auratusも日本にいることになる、ということです。
ではC. auratusとは何でしょうか?これはリンネがキンギョを模式標本として記載した種であることが知られています。そしてC. auratusがキンギョであり、キンギョが中国で作られたものであるとすれば、東アジアにいる野生フナの誰かがC. auratusに該当するということになります。余談ですが、ネット上でしばしば「キンギョの原種はギベリオブナ」という記述を見ますが、どうも違和感のある表記です。ギベリオブナがC. gibelioのことを指すのであれば、両データベースにあるようにC. auratusとC. gibelioは別種と考えられており、記載もC. auratusのほうが早いので、普通に考えればキンギョがギベリオブナということはないと思います。少なくとも学名的にはキンギョ=C. auratusであると考えられます。ただし、ここも掘り下げるとややこしい経緯がありそうなことがわかりましたので、これはまた後日。
話がそれましたが、そういうことでこれらを総合すると、日本には少なくともC. cuvieri(ゲンゴロウブナ)、langsdorfiiの名を持つ誰か(ギンブナ?)、langsdorfii以外のauratus的な誰か(オオキンブナとかニゴロブナ?)の3つのフナがいると世界的には理解されているものと推察されます。そしてbuergeri(オオキンブナ)とgrandoculis(ニゴロブナ)が分類群として存在するのかどうか、というような話になっています。もちろんこの他に未記載種がいるかもしれません。フムフム。学名的なところをここまで整理したところで、次の論文を読み進めて行きたいと思います(その3へ)。