第3回目のナーフー。前回は学名的な部分を確認しましたが、今回は和名もあわせて国内的な部分を確認してみようと思います。日本産フナ認識の歴史。日本ではそれぞれの時代で一流の魚類学者により、連綿とすばらしい総まとめが発表され続けています。ということで今回は手持ちのそういった書籍からフナを抜粋してみたいと思います。
●Jordan, D.S., Snyder, J.O., Tanaka, S. (1913) A catalogue of the fishes of Japan. Journal of the College of Science, Imperial University of Tokyo, 33: 1-497.
まずはこれ。図はなく、フナCarassius carassiusと書いてあります。和名フナ、地方名としてヒワラ、ゲンゴロウブナ、エビスブナ、カタイカリ、モミジブナ(以上琵琶湖)、ヨメブナ、ドロブナ、コッパ(以上信濃)というようなことが書いてあります。
●田中茂穂(1931)原色日本魚類図鑑.大地書院.
フナC. carassiusとなっています。ただし、「野生のものでも色々の型や色合のものがあつて、東京ではマルブナとヒラブナと又はキンブナとギンブナとを区別する」や「大阪方面では大體にマブナとヘラブナとを区別する」などとあり、「是等の型のものは別所を異にし、また習性に相違がある」と記してあります。
●岡田弥一郎・内田恵太郎・松原喜代松(1935)日本魚類図説.三省堂.
フナC. arutatusとなっており、図版にはゲンゴロウブナ、マルブナ、ガンゾウブナのキャプションとともに3つの写真が掲載されています。本文中では「変種」が多いと書かれており、「ゲンゴロウブナ」、「ニゴロ、ヒワラなどの型が見られる」、「マルブナ・ヒラブナ等の型が見認められ」、「千葉県印旛沼ではキンブナが見られて・・」、「マルブナの小なるをガンゾウブナ」などの興味深い記述があります。ガンゾウブナ・・
●岡田弥一郎・松原喜代松(1938)日本産魚類検索.三省堂.
ここではさっぱりとフナC. auratusとなっています。まあこれは海水魚含む大図鑑ですので淡水魚の細かい話は割愛されている模様。
●岡田弥一郎・中村守純(1948)日本の淡水魚類.日本出版社.
フナC. carassiusとゲンゴロウブナC. carassiusが掲載されています。何故か図版も説明も違うのに学名は同じ。フナの方言としてキンブナ、ギンブナ、マルブナ、ヒワラ、ガンゾ、マブナが、ゲンゴロウブナの地方名としてヘラブナ、ヘラ、マフナ、タニハラ、ハチオが挙げられています。
●青柳兵司(1957)日本列島産淡水魚類総説.大修館.
フナC. auratusとしており、その他のこまごまとしたものは全部同種内の変異と扱っています。
●Okada, Y. (1960) Studies on the freshwater fishes of Japan. Journal of the Faculty of Fisheries Prefectural University of Mie, 4: 1-860.
本文ではフナC. carassiusとありますが、RemarksとしてTemminck & Schlegelの記載したlangsdorifii、buergeri、cuvieri、grandoculisについて触れています。そしてプレートXLではキンブナC. sp.、ギンブナC. langsdrofii、ゲンゴロウブナC. cuvieriのキャプションとともに図が。不思議な扱いですがとりあえずキン、ギン、ゲンゴロウの3種いるかもっていう見解でしょうか。
●中村守純(1969)日本のコイ科魚類.資源科学研究所.
キンブナC. auratus subsp.、ギンブナC. auratus langsdorfii、ナガブナC. auratus bürgeri、ニゴロブナC. auratus grandoculis、ゲンゴロウブナC. auratus cuvieriとしています。ヨーロッパ産フナとの交配実験の結果これらは少なくともヨーロッパのものとは別種という結論に達したという重要な一文があります。ここでナガブナとニゴロブナが登場。
●中村守純(1971)原色淡水魚類検索図鑑.北隆館.
上と同じ。まあ当然ですね。初版では別の扱いだった模様ですが手元にはないので確認できませんでした。
●宮地伝三郎・川那部浩哉・水野信彦(1978)原色日本淡水魚類図鑑全改訂新版.保育社.
キンギョC. auratus、キンブナC. carassius buergeri、ニゴロブナC. carassius grandoculis、ゲンゴロウブナC. cuvieri、ギンブナC. gibelio langsdorfiiとなっています。おお・・何やらこれまでとは違う形であります。
●川那部浩哉・水野信彦(編)(1989)山渓カラー名鑑 日本の淡水魚(初版).山と渓谷社.
キンブナC. carassius subsp.1、オオキンブナC. carassius buergeri、ニゴロブナC. carassius grandoculis、ナガブナC. carassius subsp.2、ゲンゴロウブナC. cuvieri、ギンブナC. gibelio langsdorfiiとなっています。図鑑類でのオオキンブナ初登場?
●川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編)(2001)山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚.山と渓谷社.
キンブナC. buergeri subsp.1、オオキンブナC. buergeri buergeri、ニゴロブナC. buergeri grandoculis、ナガブナC. buergeri subsp.2、ゲンゴロウブナC. cuvieri、ギンブナC. sp.となっています。carassiusではなくbuergeriに変更。なるほど。
●中坊徹二(編)(2000)日本産魚類検索 全種の同定第二版.東海大学出版会.
ゲンゴロウブナC. cuvieri、ギンブナC. auratus langsdorfii、ニゴロブナC. auratus grandoculis、ナガブナC. auratus subsp.1、キンブナC. auratus subsp.2、オオキンブナC. auratus buergeriとなっています。最新版とあって、やっぱりお馴染みの分類体系といえますね。でもよく見ると山渓図鑑とsubsp.1とsubsp.2の和名が逆になっている。
以上、日本を代表する淡水魚類総括文献におけるフナの扱いでした。連綿と研究成果は積み重ねられ、現状で国内的にはゲンゴロウブナ、ギンブナ、ニゴロブナ、ナガブナ、キンブナ、オオキンブナの6分類群を認めるということになっているようです。学名はゲンゴロウブナ以外は大混乱という感じ。ということでそろそろ遺伝子レベルの研究成果を見て行きたいと思います。このように整理された各フナ類の実態はどうなっているのか?(その4へ)。