Sakai, H., Iwata, A., Watanabe, K., Goto, A. (2024) Taxonomic re‑examination of Japanese brook lampreys of the genus Lethenteron with descriptions of two new species, Lethenteron satoi sp. nov. and Lethenteron hattai sp. nov., and re‑description of Lethenteron mitsukurii. Ichthyological Research: online first
年の瀬迫る中、ついに日本産スナヤツメの分類に決定打を放つ記載論文が発表されました。日本産カワヤツメ属の分類学的研究です。スナヤツメと言えば、従来遺伝学的に明瞭に区別できる2種が含まれることが知られており、長らくスナヤツメ北方種とスナヤツメ南方種と呼ばれてきました。本論文ではスナヤツメ北方種がすでに記載されていたL. mitsukuriiに該当することを突き止め、新標準和名キタスナヤツメを提唱。また、スナヤツメ南方種は未記載種であることを突き止め、新種ミナミスナヤツメL. hattaiとして記載しています。さらに北海道から第3のスナヤツメとして新種ウチワスナヤツメL. satoiを記載しています。
重厚な記載で大変勉強になり、何より著者陣も重厚で、長らく日本産淡水魚ファンをしている私としては、その点でも感動に打ち震えます。最強の布陣です。
ということで日本産カワヤツメ属5種は以下となります。
〇 ウチワスナヤツメ Lethenteron satoi Sakai, Iwata & Watanabe, 2024
分布:北海道(タイプ産地は札幌市の石狩川水系)
〇 ミナミスナヤツメ Lethenteron hattai Iwata, Sakai & Goto, 2024
分布:本州、四国、九州;朝鮮半島南部(タイプ産地は山口県下関市の木屋川水系)
※従来のスナヤツメ南方種
〇 キタスナヤツメ Lethenteron mitsukurii (Hatta, 1901)
分布:北海道、本州(滋賀県以北)(タイプ産地は北海道札幌市)
※従来のスナヤツメ北方種
〇 シベリアヤツメ Lethenteron reissneri (Dybowski, 1869)
分布:北海道、本州(北部);ロシア、サハリン(タイプ産地はロシア・アムール川水系)
〇 カワヤツメ Lethenteron camtschaticum (Tilesius, 1811)
分布:北海道、本州、九州(北部);朝鮮半島、ロシア~ヨーロッパ、北アメリカ(タイプ産地はロシア・カムチャツカ)
京都大学からのプレスリリースはこちら↓
www.kyoto-u.ac.jp記事中にPDFファイルへのリンクがありますが、そちらで詳細な学名の変遷、区別点に関する解説があります。必読です!
なお、これにより九州でみられるスナヤツメは、ミナミスナヤツメ、ということになります。九州では各地で激減しており、福岡県でも例外ではありません。本種の多産地は次々と失われているのが実情です。今回、その実体が定義されたことから、保全単位としてもより明確にその存在を位置付けることができます。身近な湿地帯生物の一つとして、多くの人に大事にしてもらえればと思います。

こちらは福岡県産・ミナミスナヤツメL. hattaiということになります!

ちなみにヤツメウナギの仲間は”通常の魚類”とはだいぶ縁の遠い、円口類に属します。顎のない、きわめて原始的な脊椎動物で、近縁種の大多数は古生代までに絶滅しています。つまり生きた化石の名にふさわしい生物と言えます。

そんなすごい生物が、九州の、身近な川に暮らしているのです。すごいことだと思いませんか。すごいんです。鰓孔が7個あり、目とあわせて「八つ目」というのがその名の由来ですが、すなわち鰓もまた古生代以来の旧デザインということに、なるわけです。かっこよすぎます。