オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

ナーフー(その5)

Takada, M., Tachihara, K., Kon, T., Yamamoto, G., Iguchi, K., Miya, M., Nishida, M. (2010) Biogeography and evolution of the Carassius auratus-complex in East Asia. BMC Evolutionary Biology: DOI: 10.1186/1471-2148-10-7
その4の続きです。以前にも一度紹介しましたが、特に琉球列島を中心とした東アジア域のフナ属集団構造を理解する上で欠くことができない重要論文です。内容はミトコンドリアDNAの複数領域(CR、ND4、ND5、cytb)の解読と一部標本については倍数性判定も行い、それらの結果を総合してフナ属の系統別地理分布の概要を読み取ることに成功しています。
解析に用いたフナ属は本州〜九州の16産地、琉球列島の38産地、ロシア(アムール川)1産地、台湾2産地、中国6産地、キンギョ、ゲンゴロウブナとなっています。また、その他データベースからもってきた世界各地のフナ属塩基配列情報なども加えた解析も別途行っています。
結果は色々とあるのですが、まとめると、ゲンゴロウブナを除くフナ属はAとBの2群に区別でき、そのうちA群はさらにI、II、IIIの3群に、B群もさらにIV、V、VI、VIIの4群に区分されることがわかりました。そしてA群は日本本土系統、B群は大陸+琉球列島系統という形になっています。また、A群のうちIは本州、IIは九州、IIIは四国から得られたフナ属が概ね含まれ、B群ではIVは琉球列島、Vはロシア(アムール川)、VIは台湾と石垣島、VIIは中国から得られたフナ属が概ね含まれるという結果になっています。また、ロシア群以外の6群はすべて3倍体と2倍体両方が含まれることもわかりました。
ということで本論文にはフナ属の分類を考える上でも重要な情報が多く含まれています。まずは琉球列島固有のフナ属、台湾固有のフナ属の存在を初めて明らかにしているところです。それからキンギョが中国野生種の群に含まれているところ、さらに日本本土系統が大陸系統とは別にあり、そして遺伝的に3群あるというところです。残念ながらこの論文では形態について深く言及していません。したがってこの日本本土の3群のフナ属が和名でいう所の何ブナかというところは不明瞭なままです。ただ東アジアのフナ属は遺伝的に7群、そして日本には3群存在するのは確かなようです。というところを覚えておいて、次の論文を読んでみたいと思います(その6へ