オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文(水生昆虫)

Nakajima, J., Kamite, Y. (2020) A new species of the genus Urumaelmis Satô (Coleoptera, Elmidae, Macronychini) from Kyushu Island, Japan. Zootaxa, 4853: 421–428 : (LINK)

日本のヒメドロムシに新たな一種が加わりました!その名もカエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020です!Kamite博士との共著です。ヤッホィー!!まずはその御姿をご覧ください↓

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カエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020

カッコいい!!赤い!模式産地は熊本県山都町、副模式産地は宮崎県綾町です。和名はこの炎のような赤さと、タイプロカリティである熊本県「火の国」にちなんで、「火炎」ツヤドロムシとしました。種小名もラテン語の炎のような、を意味するflammeusに由来します。既知種とは体長、前胸背の形態、上翅間室隆起条の特徴、さらに雄交尾器の形態から完全かつ容易に区別が可能です。

この種はこれまでまったくその存在が認知されていなかったもので、私自ら、しかも九州から発見したという点で破格の思い入れがあります。また、これまでサトウカラヒメドロムシSinonychus satoi Yoshitomi & Nakajima, 2007、キュウシュウカラヒメドロムシSinonychus tsujunensis Yoshitomi & Nakajima, 2012、クメジマアシナガミゾドロムシStenelmis hikidai Kamite & Nakajima, 2017の3種の新種記載を行いましたが、いずれも神レベルの第1著者に対する第2著者としての貢献であったことから、あまり活躍する余地がありませんでした。しかし今回は、イトコであるKamite博士の力を借りつつも、ゼロから解剖、計測、スケッチ、記載文の作成、投稿の手順を経て主に自力で記載することができました。そういう点でも思い出に残るヒメドロムシになりそうです。

実は発見したのは2008年、つまり12年前(!)。当時はまだ九州大学ポスドクをしていた頃ですが、出身研究室によって熊本県山都町某用水での水生生物調査が行われており、それに参加した私は水生昆虫を調べていたのでした。その日、2008年1月7日、朝早くまったくやる気がなかった私は淡々と網をいれて虫を捕まえていたわけですが、網の上に見慣れぬ赤いヒメドロムシが鎮座している様子に気づいたその瞬間の映像が今でも脳裏に焼き付いています。動悸、息切れ、おそらく変な声も出ていたものと思われます。見た瞬間、アカツヤドロムシかと思ったことを覚えていますが、しかしどうにも様子が違い、これは新種の可能性が高いと感じました。研究室に持ち帰って顕微鏡下で見てみると、これがまったく違います。驚愕しました。九州にまだこんなすごいのがいたとは!!新種記載するならせめて10個体はと思い、調査のたび探したものの、12月に数個体を追加できたのを最後にその後は何度やっても採れませんでした。その後、宮崎県で水生昆虫の調査をしている方からヒメドロムシの標本をもらい、なんとその中に2個体本種が含まれていることに気づきました。これで合計9個体、ということで満を持して記載論文の執筆を始めたのが今年の2月でした。ということで苦節12年、そういう意味でも感激はひとしおです。ということで以下、プレスリリース風に本論文を解説したいと思います。

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九州からウエノツヤドロムシ属の新種を発見!

今回、Nakajima & Kamiteは熊本県と宮崎県から採集されたコウチュウ目ヒメドロムシ科の一種を、新種カエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020として記載しました。ウエノツヤドロムシ属Urumaeimisは日本固有の属で、これまでに南西諸島からウエノツヤドロムシUrumaelmis uenoi (Nomura, 1961)ただ一種が知られるのみの特異なグループです。また、トカラ列島口之島産のものは亜種トカラツヤドロムシUrumaelmis uenoi tokarana M.Satô, 1963として区別されています。今回、カエンツヤドロムシは本属2種目の記載となり、また九州本島からの本属の初記録となります。

カエンツヤドロムシは体長2.3~2.5ミリメートル、体色が赤~赤味を帯びた褐色であること、上翅第6、7間室隆起が完全であること、同第5、8間室隆起が不完全であること、前胸背の前端が尖り突出すること、前胸背中央条溝が基部に達すること、オス交尾器中央片が長くその先端は側面からみると波打つこと、などの特徴で既知種と明確に区別が可能です。

本属を含むツヤドロムシ族Macronychiniの各属の関係については不明な点が多く、属の定義についても再検討が必要であることが指摘されています。ウエノツヤドロムシ属の中での本種とウエノツヤドロムシの系統関係、またツヤドロムシ族の中でのウエノツヤドロムシ属の位置づけを再考する上で、本種の発見は分類学的・形態学的に重要であると考えられます。また、九州では2012年にキュウシュウカラヒメドロムシ、2020年にヒョウタンヒメドロムシが発見、記載されており、本種もそれに続く発見、記載となります。いまだ不明な点の多い九州島における河川生物相の成立様式を明らかにする上で、生物地理学的にも重要な存在であると言えます。

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