オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

2018年最後の更新となります。2017年に出版した「日本のドジョウ」の余波で研究はあまり進みませんでした。またもう一つ新しい図鑑の作成を進めていたため、論文もあまり出ませんでした。非常に残念ですがこれが能力の限界ということで止むを得ません。しかしながら図鑑のほうは原稿もそろいつつあり、そのうちに正式に発表できるものと思います。ご期待下さい。来年は研究もがんばりたいです。宿題はたくさんあります。この一年間、湿地帯中毒を見ていただきありがとうございました。それでは皆様、良いお年を。

日記

仕事納めでした。あんまりおさまっていませんが、やむを得ません。今年出会った湿地帯生物で一番感動した種を紹介します。

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奄美大島の固有種・アマミハバビロドロムシDryopomorphus amamiです。水質が良好な河川に生息し、上流から中流まで広く採集例がありますがとにかく採れません。昨年の秋に行った採集では完全に外し、改めてこの4月に採集にいってなんとか出会うことができました。それでもたった4頭です。しかしまあその採れた時の感動というか興奮というか、久々に良いものでした。

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体表面に細かい毛がたくさん生えており、水中ではこの毛によってトラップされた空気の膜が全身を包みます。銀色の空気スーツをまとったアマミハバビロムシは大変美しいです。

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採集は難しくなかなか出会えませんが、希少種かどうかは微妙なところです。本種が生息する奄美大島の河川環境は全体的に大変良好で、昆虫であるところの本種の個体数は潜在的には相当数がいるはずです。したがって、人に出会い難い何か秘密の生態をもっているのでしょう。この先も本種が生息する奄美大島の河川環境が大きく改変される可能性は低く、そのため本種もこの先しばらくずっと生き続けることができるでしょう。その点は本当に安心です。しかし気づかないうちにいなくなっていた、なんてことにならないようにある程度は生態に関する研究も進めていく必要があるかもしれません。

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 今年も貴重な湿地帯生物が生息する貴重な湿地帯は次々と失われてしまいました。今も各地で失われつつあります。生物多様性保全の重要性は認知されつつありますが、手遅れになるのではないかと危惧しています。それでも守るべき生物と美しい自然環境はまだまだ国内に多く残っています。来年もあきらめずに生物多様性保全にかかわって行ければと思っています。あわせて時折はこのような南の島に逃避して、かっこいい湿地帯生物と触れ合って、心の洗濯をしてきたいと思います。

今日は川で調査でした。おそらく今年最後の魚採りです。良い天気でした。何人かの方々に助っ人にも来ていただき楽しい調査でした。どうもありがとうございました。目的は若干果たせませんでしたが、新しい発見もいくつかありました。

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ヤリタナゴ。この川でははじめて。1個体のみ。

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ニゴイ。この川でははじめて。2個体のみ。ただこの水系全体では最近増えているようで、ちょっと気になってます。まさか外来系統とかではないよね・・という。。現在遺伝子解析をお願い中です。

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ギンブナ。美しいギンブナ。

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ムギツク。個性派です。好きです。

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イトモロコ。あんまり個性派ではないですが、好きです。

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オヤニラミ。この川はかつて多産した記憶がありますが、最近減っているような。心配です。

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ハヤ類4種。左上がカワムツ、左下がタカハヤ、真ん中がウグイ、右がオイカワです。それぞれ好む環境は異なり、4種一緒に採れることはあまりありません。

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カワヒガイ。美しい個体でした。この川で採ったのは初めてです。同行してくれたK氏によれば昔からいたけどあまり多くなかったとか。

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ヨシノボリ類3種。上がトウヨシノボリ(仮)、左がカワヨシノボリ、右がシマヨシノボリです。

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ナマズ。今日は4匹+アルファみかけました。わりと多いみたいです。

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おまたせしました。スーパースター・カマツカです。しぬほどたくさんいました。安心です。今日もかっこいいです。

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ブラジルチドメグサの群落。特定外来生物です。かつてはなかったはずですが、いきなり群落がいくつもみあたりました。今後が心配です。

 

論文

Watanabe, K., Kamite, Y. (2018) A new species of the genus Laccophilus (Coleoptera, Dytiscidae) from Japan. Elytra, New Series, 8: 417–427.

国内から新種のゲンゴロウ科、ニセコウベツブゲンゴロウLaccophilus yoshitomii Watanabe & Kamite, 2018が記載されました!新進気鋭の渡部晃平氏と水生甲虫界エースの上手雄貴氏の強力タッグによる論文です。模式産地は石川県金沢市で、本州(東北地方)~九州北部(福岡県)の広域で採集されています。名前のとおりコウベツブゲンゴロウL. kobensisに酷似していますが、交尾器形態の違いは明瞭であり、加えて上翅末端部の模様の特徴からもかなりの精度で区別が可能なようです。

今回の論文ではコウベツブゲンゴロウの標本も精査されており、過去の本州の記録がすべてニセコウベツブゲンゴロウであったわけではなく、コウベツブゲンゴロウも本州以南から広く得られていることが確認されています(今回の論文では本種の分布域として本州、四国、九州、南西諸島、五島列島対馬、台湾、韓国、中国が挙げられています)。すなわち、この2種は本州~九州北部で広い共存域をもっているようです。

ただ、ニセコウベツブゲンゴロウは比較的水温が低い樹林内の薄暗い環境で採集されていることが多く、一方でコウベツブゲンゴロウは開けた明るい環境で採集されていることが多いようで、地域的には広く共存域をもっているものの、その生息環境には違いがある可能性が高いです。2種の生態の違いについては今後の研究が必要ですね。

それから実は今回のニセコウベツブゲンゴロウの副模式標本には私が採集した福岡県産のものも使われています。うれしいです。すでに私はこの種を採ったことがあるということになり、自力採集ゲンゴロウ科が一種増えました。それでは福岡県にはコウベツブゲンゴロウはいなかったのかというと実はそうではなく、北九州市立自然史歴史博物館の行徳コレクションに入っていたものは正真正銘のコウベツブゲンゴロウであることが今回の論文で示されています。すなわち福岡県内には2種ともに標本に基づく記録があるということになり、福岡県産ゲンゴロウ科も一種増えたということになります。たいへんめでたいです。

しかしめでたがってばかりいるわけにはいきません。実は現時点でこの2種の確実な産地は県内に存在しないからです。ニセコウベツブゲンゴロウの最後の採集例は2004年、コウベツブゲンゴロウに至っては1938年(!)です。なんとか県内に生き残っていて欲しいです。今回の新種記載を契機に、各地で調査が進展することが期待されます。

日本列島の生物多様性にはまだまだわかっていないことが多いです。知らないうちにすべて失っていたということにならないよう、地道な自然史研究が各地で進展し、保全されるべき環境や生物がきちんと保全される世の中になっていって欲しいものです。

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そんなニセコウベツブゲンゴロウLaccophilus yoshitomii Watanabe & Kamite, 2018の御姿がこちらになります!写真を提供していただいた渡部晃平さん、ありがとうございました!カッコイイ!!

日記

川で調査でした。天気は良かったのですが風が冷たかったです。

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うーん、ヤマメ?アマゴ?アマゴとすれば自然分布域ではありません。ここは放流がされているのかもしれません。

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これは別の川。ここのははっきりとヤマメに見えます。九州ではエノハと呼ばれることが多いヤマメ・アマゴですが、主に釣り人による無秩序な放流で自然分布はかなりめちゃくちゃになってしまいました。九州では基本的に瀬戸内側にアマゴが、それ以外にヤマメが分布することが明らかにされています。かつては九州各地の川にそれぞれ個性的なヤマメやアマゴがいたのでしょうけど、人間による放流でめちゃくちゃになってしまいました。取り返しのつかないことで、大変残念です。ところでこの時期、福岡県内は基本的にヤマメ類は禁漁です。今回は特別採捕許可を得ての調査ですので、注意してください。

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タカハヤです。きれいです。

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ウグイです。私の故郷・八王子で慣れ親しんだウグイとはだいぶ雰囲気が異なります。

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カワムツです。美しいです。

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固定堰に据え付けられた魚道をみました。なかなか良い感じです。固定堰直下はあまり治水のことは考えずにこうした構造物をつけることができます。もう少しギリギリまで岩を組んでも良かったかもしれません。

 

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ただ、引いて見るとこんな感じで、そもそも魚道の手前部分の処理がよくありません。段差がありすぎです。写真左側に少し岩を組んだような感じがありますが、それも崩れてしまっていて、せっかくの上の魚道を生かし切れていないように思います。惜しい。

日記

 今日は調査のため湿地帯へ。

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オバエボシガイの死殻。生きたものを探索していたのですが、採れず・・・。二枚貝の採集能力が低いです。

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その後は今年度改修予定の水路をみてきました。もう杭がたっていました。悲しいです。とっても良い風景だと思いますが、風景じゃ食えないと言われればそれまでです。色々と協議して多少は生物に配慮した工法になる予定ですが、色々と限界も感じています。

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この水路には絶滅危惧種もいます。でもこの辺にはまだいくつも産地がある種です。絶滅危惧種がいるんですよと説明した時に、でもここでいなくなったら絶滅というわけではないのですよね?と聞かれて、それはまあそうですね、としか答えられませんでした。それはまあそうなんですが。

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悲しいので帰りに渓流でマルヒメツヤドロムシをつまんできました。この渓流はしばらくずっとこのままで、ここのマルヒメツヤドロムシもしばらくずっと絶滅しないことでしょう。

 

日記

今日も川でした。

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どう見ても、良い川です。

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セマルヒメドロムシです!思い入れのある素晴らしいヒメドロムシですが、今日の目的はこれではありません。

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これです!事情によりモザイクがかかっています。申し訳ありません。幾多の猛者の目をかいくぐって未発見であり続けたのですが、この秋、本州から来た凄腕の若者により発見された水生甲虫です。おそらく新種なので、この先の分類学的研究が必要です。無事採れて安堵しました。

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ということでご案内いただいたK君、Uさん、ありがとうございました!水生甲虫愛のある人と採集するのはやっぱり楽しいですね。