オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

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今日の調査にて、ワタカIschikauia steenackeri。ここでは外来種です。久しぶりに採りましたが、このクルタ―ぽい雰囲気が最高にクルタ―でよい。本来の生息地である琵琶湖淀川水系では激減しているとのことです。

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こちらもここでは外来種ブルーギル。カッコいいんですけどね。ご存じ、外来生物法に基づく特定外来生物ですので、無許可での飼育は禁止です。放流も、生きたままの運搬も禁止。罰せられます。

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こちらもここでは外来種カムルチー。いわゆる雷魚の一種です。これもまたカッコイイ。久しぶりに採った気がする。

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ツチフキです。私も絡んだとある研究結果を見る限りでは、ここのは残念ながら外来集団ぽいですが、はたして。しかし良い魚であります。

日記

今日は休日。ポン氏が魚を採りたいと言ったので、買い物のついでに水路へ。はじめて行ったところでしたが、地図で見当をつけて適当に。

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思ったより良い水路で、上からも魚がたくさん見えました。

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カマツカです!カマツカの楽園でした。素晴らしいです。

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カマツカの楽園ということは当然オイカワもたくさんいます。銀色ピカピカ。

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イトモロコです。

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ミナミメダカです。

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ギンブナです。

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ドンコとドジョウ。普通種が普通にたくさんいて、素晴らしい環境でした。

ここは一度完全に改修されている様子なのですが、やはり「幅」の問題でしょうか、二次的に流路ができ良い環境が再生していった結果、魚の数も戻ってきたのだろうと思います。もちろん、珍しい魚、というのはいなかったのでベストではないのですが、こういうレベルでの湿地帯再生というのも、可能な限り狙って押し進めていくことが、総体としての湿地帯再生、生物多様性保全と再生につながるものと思います。

日記

今日も調査でした。春先色々と滞っていたのをなんとかとりかえしていかないといけません。

 

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今日の湿地帯。うーん、良いですね~。この場所には12年ぶり?くらいに来ました。果たして目的のあれはいるでしょうか・・

 

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いました!シロチチブです。まだ命を繋いでいたようでした。うれしいです。

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ショウキハゼもいました。

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エビは知識が少ないのでわかりません。きれいで特徴的なので、今度名前を調べてみたいと思います。

書評

棟方有宗・北川忠生・小林牧人(編)「日本の野生メダカを守る −正しく知って正しく守る」生物研究社,2020年.

aquabiology.stores.jp

メダカという魚は日本ではかなり著名な魚ですが、その実態、そして野生のメダカに起こっている諸問題については知られていないことも多いのではないでしょうか。そんなメダカの最新の科学的知見さらに保全対策について正確に知ることができる素晴らしい本が出ました。そもそも編者からして信頼度が高いです。

出だし、保全のために生活史を理解すべきというのは完全に同意。ここはとても重要です。それから現在もっとも大きな問題とされながら、おそらくその実際があまり理解されていない部分、遺伝的多様性の保全と遺伝的攪乱の問題について、北川先生が解説している第4章は非常に重要です。第6章の保護への提言、第7章の保全事例、第8章の環境教育も良いです。保全を目的とした本なので保全についてはもちろんきちんとしているんですが、生態、分布、遺伝的集団構造、飼育品種など、最新のメダカについての科学的知見がわかりやすく整理されています。コラムもちょっと知りたい、考えたい内容が広いテーマで書かれていて勉強になり、面白いです。そんな中、息抜き的なコラム7の編者3人のメダカの思い出も良いです。

とにかく内容が正確、論理的で丁寧な良い本です。メダカの保全をしたいと思う人は絶対に教科書にしておいて欲しいですし、このくらいの内容は完全に理解しておかないといけないでしょう。この辺勉強したい人には、必読の内容です。おすすめです。とりあえず飼っているメダカをその辺に放してはいけません。それはただの環境破壊です。

 

ところで余談ですが、個人的に面白かったのがコラム6とコラム12。ミナミメダカとキタノメダカは同種か別種かというところ、色々な研究事例に基づいて深く書いていて、ここでの考え方は納得できるものです。ただ、それでも、このような考え方に基づいても明確に線が引けない集団同士というのはあり、特に純淡水魚では同種か別種かをこの線「だけで」考えるのは難しいのではないかと私は考えています。つまり、自然状態で同所的にいない、そして遺伝子と形態の特徴から区別できる、のであれば、直接的な生殖隔離の有無を考えずにそれぞれを「分類学的には」別タクソンとしてラベリングせざるを得ないものもいるのではないかということです。さらにそれらを種か亜種かと区別するのはこれまた難しく、こうしたものはひとまずラベルとしては「種」として定義すべきではないか、ということを最近は考えています。特に純淡水魚については、飛べる生物や海洋分散できる生物とはまったく違った観点から分類を考えないといけないでしょう。完全に余談です。ということで色々考えるのに、やはりメダカという魚とその研究事例を理解することは重要だということがよくわかりました。

日記

今日は湿地帯調査でした。湿地帯とは6mより浅い沿岸域も含む。f:id:OIKAWAMARU:20201013215523j:plain

したがってここは紛れもない湿地帯。素晴らしい湿地帯。

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そして!狙いの!アオギス!!ヴォィィィ!!!かっこよすぎる。うーむ、かっこよすぎる!!3時間粘ってこの1匹のみでしたが、なんとか採れてよかったです。現在研究を進めている環境DNA参照標本セットに組み込まれます。

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こちらはアオギスの小さいのか!と思ったけど、よく見たらシロギスのようでした。罠・・。アオギスは第2背鰭に明瞭な模様列があること、顔がより長いこと、色合いが青黄色っぽいこと、などで現場でもシロギスと区別できます。

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メナダです。

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ボラです。

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ヒイラギ。何かの歯車がずれていたら、私はヒイラギ博士になっていたかもしれない。そんなことをいつも思い出させてくれる魚です(参考文献:湿地帯中毒 身近な魚の自然史研究 東海大学出版部)。

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マハゼです。おいしそう。ハゼの中のハゼといった感は確かにあります。

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サッパです。岡山のままかりままかりも美しいですが、生きている時もたいへん美しい魚です。

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異体類は苦手な部類です。うーん、タマガンゾウビラメ?・・・>>10月14日追記;その後詳しく調べてみたところ、ガンゾウビラメ属のテンジクガレイでした。

ということで久しぶりに良好な干潟を堪能しました。調査目的も達成できて、満足です。

 

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標本写真。

日記

今日は観察会でした。天気も良くて、ちびっこの皆さんも喜んでおられました。良かったです。

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河川敷には大量のヌマガエルがいました。稲刈りして水田が明るくなると川の方に移動してきているような気がします。

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カマツカもお見せすることができました!今年は布教が足りなかったです。カッコイイでしょう!と言い続けていたら何人か、カッコイイと言っていました。しかし私自身、今年ほどカマツカを見なかった年はなかったかもしれません。久しぶりに見ると、やはりカッコイイですね。

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かなり大きなヤマトシマドジョウのメスです。この複雑な模様がたまりませんね。

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イトモロコです。時々その存在を忘れられてしまう魚ですが、その美しさは確実です。陽光を浴びると輝くのです。

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ムギツクです。これは誰が見ても美しいと言いますね。特にこのサイズは最高に美しいです。ものすごくたくさんいました。

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大きなドンコもとれました。

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この牙をご覧ください。かなりの迫力。捕食者としての実力がうかがわれます。

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なんと参加者のちびっこがアリアケギバチを捕まえてくれました!ひそかに狙っていたのですが、やられました。全力でほめたたえておきました。彼はきっとこの魚のことを覚えていてくれるでしょう。九州固有の素晴らしい淡水魚です。

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観察会終了後はちょっと秘密のカワバタモロコ水路の様子を確認しに。今年もうまく繁殖できていたようでした。少なくとも私が生きている間は、生息地であり続けて欲しいものです。

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やけに美しいナマズがいました。大きさ的に今年生まれですね。きらめいています。

論文(水生昆虫)

Nakajima, J., Kamite, Y. (2020) A new species of the genus Urumaelmis Satô (Coleoptera, Elmidae, Macronychini) from Kyushu Island, Japan. Zootaxa, 4853: 421–428 : (LINK)

日本のヒメドロムシに新たな一種が加わりました!その名もカエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020です!Kamite博士との共著です。ヤッホィー!!まずはその御姿をご覧ください↓

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カエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020

カッコいい!!赤い!模式産地は熊本県山都町、副模式産地は宮崎県綾町です。和名はこの炎のような赤さと、タイプロカリティである熊本県「火の国」にちなんで、「火炎」ツヤドロムシとしました。種小名もラテン語の炎のような、を意味するflammeusに由来します。既知種とは体長、前胸背の形態、上翅間室隆起条の特徴、さらに雄交尾器の形態から完全かつ容易に区別が可能です。

この種はこれまでまったくその存在が認知されていなかったもので、私自ら、しかも九州から発見したという点で破格の思い入れがあります。また、これまでサトウカラヒメドロムシSinonychus satoi Yoshitomi & Nakajima, 2007、キュウシュウカラヒメドロムシSinonychus tsujunensis Yoshitomi & Nakajima, 2012、クメジマアシナガミゾドロムシStenelmis hikidai Kamite & Nakajima, 2017の3種の新種記載を行いましたが、いずれも神レベルの第1著者に対する第2著者としての貢献であったことから、あまり活躍する余地がありませんでした。しかし今回は、イトコであるKamite博士の力を借りつつも、ゼロから解剖、計測、スケッチ、記載文の作成、投稿の手順を経て主に自力で記載することができました。そういう点でも思い出に残るヒメドロムシになりそうです。

実は発見したのは2008年、つまり12年前(!)。当時はまだ九州大学ポスドクをしていた頃ですが、出身研究室によって熊本県山都町某用水での水生生物調査が行われており、それに参加した私は水生昆虫を調べていたのでした。その日、2008年1月7日、朝早くまったくやる気がなかった私は淡々と網をいれて虫を捕まえていたわけですが、網の上に見慣れぬ赤いヒメドロムシが鎮座している様子に気づいたその瞬間の映像が今でも脳裏に焼き付いています。動悸、息切れ、おそらく変な声も出ていたものと思われます。見た瞬間、アカツヤドロムシかと思ったことを覚えていますが、しかしどうにも様子が違い、これは新種の可能性が高いと感じました。研究室に持ち帰って顕微鏡下で見てみると、これがまったく違います。驚愕しました。九州にまだこんなすごいのがいたとは!!新種記載するならせめて10個体はと思い、調査のたび探したものの、12月に数個体を追加できたのを最後にその後は何度やっても採れませんでした。その後、宮崎県で水生昆虫の調査をしている方からヒメドロムシの標本をもらい、なんとその中に2個体本種が含まれていることに気づきました。これで合計9個体、ということで満を持して記載論文の執筆を始めたのが今年の2月でした。ということで苦節12年、そういう意味でも感激はひとしおです。ということで以下、プレスリリース風に本論文を解説したいと思います。

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九州からウエノツヤドロムシ属の新種を発見!

今回、Nakajima & Kamiteは熊本県と宮崎県から採集されたコウチュウ目ヒメドロムシ科の一種を、新種カエンツヤドロムシUrumaelmis flammea Nakajima & Kamite, 2020として記載しました。ウエノツヤドロムシ属Urumaeimisは日本固有の属で、これまでに南西諸島からウエノツヤドロムシUrumaelmis uenoi (Nomura, 1961)ただ一種が知られるのみの特異なグループです。また、トカラ列島口之島産のものは亜種トカラツヤドロムシUrumaelmis uenoi tokarana M.Satô, 1963として区別されています。今回、カエンツヤドロムシは本属2種目の記載となり、また九州本島からの本属の初記録となります。

カエンツヤドロムシは体長2.3~2.5ミリメートル、体色が赤~赤味を帯びた褐色であること、上翅第6、7間室隆起が完全であること、同第5、8間室隆起が不完全であること、前胸背の前端が尖り突出すること、前胸背中央条溝が基部に達すること、オス交尾器中央片が長くその先端は側面からみると波打つこと、などの特徴で既知種と明確に区別が可能です。

本属を含むツヤドロムシ族Macronychiniの各属の関係については不明な点が多く、属の定義についても再検討が必要であることが指摘されています。ウエノツヤドロムシ属の中での本種とウエノツヤドロムシの系統関係、またツヤドロムシ族の中でのウエノツヤドロムシ属の位置づけを再考する上で、本種の発見は分類学的・形態学的に重要であると考えられます。また、九州では2012年にキュウシュウカラヒメドロムシ、2020年にヒョウタンヒメドロムシが発見、記載されており、本種もそれに続く発見、記載となります。いまだ不明な点の多い九州島における河川生物相の成立様式を明らかにする上で、生物地理学的にも重要な存在であると言えます。

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