オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

和漢三才図会〈7〉 (東洋文庫)
和漢三才図会(7)寺島良安(訳注・島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳)
和漢三才図会は江戸時代の医者である寺島良安が1770年代前半頃に執筆したとされるいわば百科辞典平凡社東洋文庫から現代語訳版が出ており、今回紹介するのはこれの6巻と7巻。6巻は今で言う哺乳類や鳥類、7巻は、昆虫類、魚類、両生類、爬虫類、その他諸々動物の部分がまとめられています。現代語訳されており、原著のイラストもきちんと掲載されているのでお手軽に江戸時代の博物書の雰囲気が楽しめます。
この2つの巻では、とにかくひたすら淡々と、これまでに知られている動物種について、イラストと解説で紹介していくというスタイルなので(百科辞典ですから当然ですが)、ぱらぱらとめくって見るだけでも面白い。また、ヒヒやテナガザルを解説しているかと思えば、ミコシニュウドウやヒデリガミを解説していたり、ウルメイワシやニシンを解説しているかと思えば、シャチホコやニンギョを解説していたり、と私にはたまらない混沌とした内容です。
現在も実在することが確認されている種についての記述は、もちろん迷信であるだろうと思われることもたくさん書いてありますが、意外に生態など正確な部分も多く、簡潔な解説はうなずく部分も多いです。正確な科学的知見に基づかない、いわば「伝承を引用して成立した博物図鑑」の裏側に、当時の日本や東アジアでの思考・思想や社会背景が透けてみえることでしょう。読めば読むほどに色々な解釈が成り立つものと思います。また、巻末に訳者の一人である竹島氏による各部解説、それと引用されている古文書の紹介が掲載されていて、ここもかなり重要です。
さて、解説によれば、和漢三才図会はこと魚類にかんしてその当時の日本での最高水準の情報をとりまとめたもの、ということなのですが、淡水魚類として35種が掲載されています(魚じゃないのもあるけど・・)。私が博士論文で取り組んだカマツカは、さすがにしっかりと掲載されていました。やはり当時の人の目にも良くふれていた目立つ淡水魚だったのでしょう。まああのかっこよさは異常ですから存在が気づかれないということがあるはずもないのですが。ということでカマツカの頁を以下に引用します。

鯊-かなびしゃ・じんぞく 鮀魚 吹沙 沙鰮 沙溝魚
本草綱目』に次のようにいう。鮀魚は渓澗の沙溝の中にいる。沙をはいて游泳し、沙をすすって食べる。大きなもので長さ四、五寸。頭も尾も同じように大きい。頭の状は鱒に似ている。体は円くて鱓に似ていて厚肉、重唇、細鱗、黄白色で長い斑点の文様がある。背に大変硬い鬐刺がある。尾は岐になっていず、小さい時には子がある。味は大変よく、俗に阿波魚(これは海中の沙魚ではない)と呼んでいる。 △思うに、鯊は湖や谷川の水底や石間にいる小魚である。形色ともに鯒に似ていて小さい。大きさは一、二寸。細かい黒点模様がある。尾は岐になっていない。京では一般に加奈比志夜(金杓の下を略したものか)という。四国の人は志牟曽久(名前の由来についてはまだ考察していない)という。まだ四、五寸のものは見たことがない。

多少?なところもありますがよい解説です。本草綱目は中国明の時代の博物書ですから、本草綱目からの引用部分は中国のカマツカ類に関することでしょう。△以降は寺島良安のコメントなわけですが、本人は大型の個体を見たことがなかったようです。大型の実物をみたらきっと良安もカマツカのファンになったことでしょう。カマツカ教団員(構成員2名)として若干残念なことです。また、「かなびしゃ」は金柄杓の略では、という推測をしておりますが、カマツカという名前も「鎌柄」、鎌の柄であるという説があり、どうやら掴み易い柄みたいな魚だというのは、パッとカマツカを見たときの一般的な認識の一つなのでしょうね。そんな気もする。
ということで、その他見所盛りだくさんな和漢三才図会の動物編、生物愛好家と妖怪愛好家は色々と楽しめるお勧めの本です。