オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

論文

Yoshitomi, H., Hayashi, M. (2020) Unexpected discovery of a new Podonychus species in Kyushu, Japan (Coleoptera, Elmidae, Elminae, Macronychini). Zookeys, 933: 107-123.(リンク

九州(大分県)から新種のヒメドロムシが記載されました。その名もヒョウタンヒメドロムシPodonychus gyobu Yoshitomi & Hayashi, 2020です!日本初記録属であり、かつ本属としても世界で2種目。しかも本属の1種目はインドネシアスマトラ島の南にあるシベルト島から発見・記載されています。赤道の向こう側です。つまりシベルト島から大分県の間ではこれまで本属種がみつかっていないのです。もちろん未発見という可能性は高いですが、東南アジアから中国のヒメドロムシ相は比較的よく調べられており、これほどまでの分布の空白の理由は気になるところです。ということで生物地理学的な妄想が限界まで楽しめそうなすごい湿地帯生物です。今回成虫とあわせて幼虫も記載しており、情報量の多い素晴らしい論文になっています。そしてオープンアクセスです。

種小名の「gyobu」、これはおなじみNPO法人北九州・魚部に由来します。そう、発見者は魚部代表のI氏で、それにより魚部の名がついたヒメドロムシとなりました。和名のヒョウタンは、なんか瓢箪ぽい外部形態のイメージそのままに、さらにタイプ産地の大分県宇佐市には「宇佐ひょうたん」という名産品もあり、そのあたりも想起される良い和名だと思います。

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気になるそのお姿はこちら!ヤバイ!赤い!脚が長い!本種は体長1.3ミリ前後の小型種で、岸際のヨシの根際で生活する、いわゆる「岸系」ヒメドロムシです。一見するとマルヒメツヤドロムシのような感じですが、生きた個体を観察しているとこの長い脚と強力な爪を使ってかなりしっかりとヨシなどの根に掴まっていることがわかります。

ちなみに私はこの種が発見されたという情報をいただいたすぐ後に、追加個体探索ツアーに参加させてもらい、世界で2番目にこの種を採った人類になったのでした。パラタイプにもその時の標本をいれていただいています。個人的に思い入れのある九州の湿地帯生物の一つになりました。ツアーにお誘いいただき採らせていただいたI氏に御礼申し上げます!まさかこんなすごいのがまだ九州の湿地帯に眠っていたとは知りませんでした!

日本の水生昆虫修正点の追加

好評いただいているネイチャーガイド日本の水生昆虫(リンク)ですが、P.192~196及び検索部のP.325のマルヒメドロムシ属Optioservusの体長表記に間違いがありました。お詫びするとともに、訂正を以下にまとめます。体長記述の間違いをご指摘いただいた上手雄貴博士にこの場を借りてお礼申し上げます。

ツルギマルヒメドロムシ → 3.1-3.4 mm

ムナミゾマルヒメドロムシ → 2.5-2.7 mm

ダイセンマルヒメドロムシ → 2.6-2.9 mm

スネグロマルヒメドロムシ → 2.7-2.8 mm

タテスジマルヒメドロムシ → 2.7-3.1 mm

スネアカヒメドロムシ → 2.7-3.0 mm

ツヤケシマルヒメドロムシ → 2.1-2.3 mm

コマルヒメドロムシ → 2.3-2.5 mm

P196の検索部ではスネアカヒメドロムシ系とセアカヒメドロムシ系の区別点として体長2.1mmを基準にしていましたが、正確には2.5mmがおおよその基準になります。

なお体長というのは同定する上で参考になる情報ではありますが、一方で論文ごとに計測法に若干の違いがあり、また標本の作製の仕方(頭部をしっかり前に出すか、前胸背を持ち上げるか)などによってもその値が大きく異なります。特に微小種についてはわずかな作成法・計測法の違いが大きな差になることもあります。

ということを書くと、例えば上の「2.5mm」が基準とか参考になるのという気がするかもしれませんが、生物では同種内でも体長の個体変異がいくらかはあるのが普通で、極端に小さな個体や極端に大きな個体はどうしてもでてきてしまいます。そして標本の作製法や撮影の仕方によっても、誤差が生じてしまいます。ただ「だいたいこのくらい」という値は実はけっこう安定しているもので、実際はセアカ類は2.5ミリより小さい個体が多いですし、スネアカ類は2.5ミリより大きい個体が多いです。なんとなく小さい、なんとなく大きい、と仮に位置付けた上で、体型や細かい形態をチェックしていくとより正確な同定が可能になります。

 

日記

先日にポン氏と採集したミナミメダカを撮影したりしていました。

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オスです。が、なんだか、尻鰭が長い。。こんなだったですかね。。

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こちらはなんか上からみて違和感のある個体。横から見てみたら、これはいわゆる透明鱗という色彩変異個体ですね。完全に野生の個体群だとは思うのですが、このご時世、誰かの放流した改良品種が混ざっていたりするかもしれないとか思ったりもして、ちょっと悩ましいことでした。美しいですが。

昨今、品種改良されたメダカの飼育が流行していますが、それらはその辺に放せば当然外来種となります。また、その地域の在来メダカとも容易に交雑し、遺伝的攪乱を招きます。それは取り返しのつかない、自然遺産の破壊です。飼育しているメダカは、どんなものであれ、決して野外に遺棄しないようにしましょう。各地でメダカたちが築いてきたメダカの歴史を尊重しましょう。

日記

遠出してはいけないということなので、家にいます。今日は粘土で遊びました。

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タイトルは「湿地帯と憂鬱」

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ポン氏の作品です。上の顔が紫のが「ふくろう」、オレンジのが「大蛇の妖怪」、手前の緑のが「勇者」、その隣の白いのが「こうもり」、左の黄色のが「つちのこ」だそうです。やはりポン氏のように自由にはつくれないですね。小手先の技術、表層にある知識が邪魔をしてしまう。芸術は難しい。しかし楽しい。

日記

不要不急の外出を控えないといけない日々が続きます。しかし健康維持をしなくては話になりませんので、自宅から車で20分圏内の誰も人がいなそうな湿地帯にて健康維持活動をしてきました。

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良い水路です!

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かっこいいフナがいました。

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ミナミメダカがものすごくたくさんいます。

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ドジョウもいました。これはなかなかの大物です。ここでは他にオイカワやバラタナゴもいました。

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この時期こういう水路には水生昆虫もいます。チビゲンゴロウです。

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コガタノゲンゴロウです。他にはウスイロシマゲンゴロウ、ヒメガムシ、キイロヒラタガムシがいました。

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少し場所を変えて別の水路です。ポン氏にこのように網を持たせて、私が追い込みます。

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なんとナマズがとれました!大物です。ポン氏も興奮していました。

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これはアリアケスジシマドジョウです。良い水路です。

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ポン氏が捕まえたウシガエルです。特定外来生物ですが、まあそんなことは置いといて大きな生き物は捕まえると楽しいですね。

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ということで成果です。いろいろな湿地帯生物に出会えて満足しました。ひとまず精神は安定しそうです。もちろん今回の採集中に我々以外の人類は200m四方に皆無でした。

ところで、実はこの2つの水路はおそらく今年~来年にかけて埋め立てあるいはコンクリート水路化します。非常に残念です。これらの生きものの多くは生き埋めあるいは干からびて死んでしまうのでしょう。新型コロナウイルスについての諸問題が解決した後に、新たな日常、新しい生活様式、を考えていかねばならないなんて言葉が政府からも出てきていました。ならばこのように、国民が気軽にソーシャルディスタンスを維持したまま遊べる湿地帯を国内に適宜設置していくべきではないかとも思います。やはりちびっこのためにも身近な自然は必要でありますし、こうした生物豊かな湿地帯の積み重ねが、河口域や海域における有用な水産資源の安定供給にもつながっているはずです。有用な水産資源を国内で安定供給できることの重要さは今回の件で強く共有できると思います。

新しい生活様式というなら、何万人あたりに何平方キロなどと基準を設けて生物多様性の高い湿地帯の再生を義務付けるなど、自然再生にも本腰をいれていくべきです。これまでどおり、何も考えずに、こうした良い水路の「近代化」を進めていくのはあまりにも大きな損失です。もちろんこうした水路の維持管理が農家にとって大きな負担であることはわかります。しかし一方で国民にとっての大きな財産でもあるわけです。したがってこうした水路を、湿地帯を、国民の共有財産としてとらえて、何らかの公的な支援を行いつつ、きっちりと保全し再生していく方向に、なっていってほしいと願います。

 今日の水路についてはほんとうに打つ手無くて、無念ですが(それでも少々の配慮をしてもらうことにはなっていますが)、ポン氏にはこの時こんな水路でドジョウやメダカやナマズを捕まえたなあということを、風景とともに覚えていてくれればと思います。

日記

魚類学雑誌最新号の会員通信に正式に記事が出たので、こちらにも書いておきます。

今年の日本魚類学会自然保護委員会の市民公開講座観賞魚としての日本産淡水魚の流通・飼育の現状と課題」は来年に延期となりました。今回は琵琶湖博物館の金尾さんと私との共同企画として進めており、記事にある通り、金尾さんと私の他に、環境省さん、自然環境研究センターさん、オッケーフィッシュファームさん、アクアライフさんからも話題提供を行ってもらい、公開で議論する予定でした。趣旨に賛同していただいた講演予定の皆様にはお礼申し上げるとともに、延期となり申し訳なく思っています。また、それに向けて色々と準備・調整してきたので、個人的にもたいへん残念です。しかし止むをえません。

以下、今回の公開講座で語る予定だった個人的な思いを書いておきます。もともとは某先生から勧められた企画ではあったのですが、ああやりたいなと思った大きな理由は国策により近年指定種が増えつつある種の保存法に基づく国内希少野生動植物種のことと、観賞魚飼育趣味のことで、色々と考えているところが多くあったからです。特に観賞魚として高い人気があり、多くの業者や愛好家において飼育繁殖が継続していたセボシタビラが今年指定されたことは、大きな波紋を呼びました。指定により採集、(新規の)飼育、譲渡、売買、すべてが禁止となり、違反すれば犯罪という状況になってしまったからです。

この20年間九州各地で2000地点以上の調査を行ってきましたが、セボシタビラの急速な激減状況は突出しており、その中で有効な保全対策がまったく打てなかったことを考えれば国内希少野生動植物種指定は妥当であり、これが生息地の保全に確実につながると考えています。私は九州の一研究者として環境省からのヒアリングを受けており、そのデータと見解を提供しました。また同時に特定第一種(=指定業者のみが増殖した個体に限り売買可能)に合致するのではないかということは、当初から環境省に対して意見していました。多くの愛好家が飼育していることは知っていましたし、野外採集によらない養殖個体がかなり流通していることも見聞きしていたからです。そしてそれを受けて、環境省は養殖・販売している業者にヒアリングを行ったということも聞いていました。しかしながら結局特定第一種への指定ではなく、本指定、またパブリックコメントにおいてその件についての質問が来ていたにも関わらず、環境省からの回答は非常に不誠実という印象を受けました。そのため、多くの飼育している愛好家、養殖販売している業者からの強い反発と混乱を招く結果となりました。そしてまた、最終決定時の議論も含めて、情報提供した私の方にも明確な説明は行われていません。

これまで色々な保全の現場にかかわってきましたが、特に種の保存法指定種の保全は、域外・域内保全の両輪で進めることが重要で、さらに行政、研究者、愛好家が協力しなければうまくいきません。このままでは守れるものも守れなくなるという危惧があります。そうした中、愛好家をないがしろにするような形の今回の指定は非常に問題であり、その根源には、観賞魚飼育趣味に対する無理解があるのではないかと個人的には思っています。私は愛好家からスタートして、研究者となり、いまは行政研究機関に所属しています。それぞれの立場や思いもある程度は理解しているつもりです。そこで今回企画していた公開講座がこうした課題共有の場となり、各立場の「個人的な思い」に少しでも沿った形で保全を進めるにはどうすればよいのか、ということを議論する場になればと思っていました。

種の保存法は指定して終わりではありません。指定により実行力のある保全対策を進め、個体数を増加して絶滅の危機を回避し、指定から外すことを目指す必要があります。またその過程で特定第一種等への移行も十分に可能です。セボシタビラの特定第一種あるいは二種への移行は、私自身は今後も推していきます。現時点での私の明確な立場です。

私がしたいのは、身に回りにいる絶滅しそうな淡水魚(や水生昆虫)が一種でも一産地でも、絶滅しないようにしたいというだけです。この20年間で、九州だけでも、かなりの産地で多くの湿地帯生物が絶滅してしまいました。非常に残念で悲しいです。本当に、なんとかしたいものです。保全は一人ではできないということも事実ですが、必ず仲良くする必要もないのです。ただ一点だけでも思いが共有できれば、協力できるところだけでも協力して、なんとか絶滅させずに、捕まえたり飼育したり研究したり食べたりということが、いつまでもできるような世の中になればと思っています。そしてそのためには種の保存法が真に種の保存につながる形になる必要があります。今回の公開講座の延期は残念ですが、問題はこの先も続くものですので、なんとか同じ形で来年度開催できるよう努力していきます。

 

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 繁殖期のセボシタビラのオスです。私は幼少時から淡水魚飼育を趣味としており、中高生のころは水槽10本前後を常時維持して自ら採集した淡水魚30種前後を飼育していました。しかしタナゴの仲間は当時すでに関東南部ではほとんど絶滅しており、タイリクバラタナゴ以外に出会うことはありませんでした。それで大学生になって九州に来て、はじめて採ったセボシタビラの美しい婚姻色にものすごく感動したのを今でも覚えています。この感動を次世代に引き継ぎたいと思っています。野外で絶滅させないということを大前提として、何をどのようにしていくのが良いのか、実は非常に難しい問題は多々あるのですが、それでもなんとかしないといけません。

おまけ

種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されている日本産淡水魚は現在(2020年時点)以下の10種となっています。

ミヤコタナゴ(1994年)

イタセンパラ(1995年)

スイゲンゼニタナゴ(2002年)

アユモドキ(2004年)

ハカタスジシマドジョウ(2019年)

タンゴスジシマドジョウ(2019年)

コシノハゼ(2019年)

セボシタビラ(2020年)

アリアケヒメシラウオ(2020年)

カワバタモロコ(2020年)※特定第二種(売買のみ禁止、個人的な採集飼育は可)

地域でみると関東1、東海2、北陸1、関西4、山陽3、九州4となっています(重複あり)。もともとの在来種数を考えれば地域的な偏りもなく、各種の希少性や危機的状況などをみればおおむね妥当な指定状況と私は思います。最近九州の指定種が多いという声もききますが、事実そうですが、実はこれをみればわかるとおりこれまで「指定すべき種の指定がとまっていた」「それが動き出した」というのが実情です。なんでこれまで止まっていて、今動き出したのかについては、まあ色々知っていますがここではだまっておきます。大事なのは今後どのような方法で指定から外れるように増やすかという具体的な計画です

日記

アマビエという妖怪をご存じでしょうか。私は実は幼少時からの妖怪愛好家でして、水木しげる先生の書かれた子供向け妖怪本に載っている妖怪の絵をノートに模写しまくっていたような子供だったので、幼少時からアマビエという妖怪は良く知っていました。そしてこの21世紀、2020年になって、わが国ではアマビエがメジャーデビューしてネット上などで大人気となっています。

アマビエの話は江戸時代の瓦版が初出で、

『弘化3年4月中旬(1846年5月上旬)のこと。肥後国の海中に毎晩光る物体が出没した。そこで役人が赴いたところ怪しい者が姿を現した。その者は「私は海中に住むアマビエと申す者なり。これから6年の間は諸国で豊作が続くが疫病も流行する。その際は私の姿を描き写した絵を人々に見せよ」と話して海の中へと帰って行った。』

というようなものです。よく読むと絵を見せれば疫病がおさまるとは一言も言っておらず、罠ではないかという説もありますが、ひとまず好意的に解釈し、描いた絵を見ると疫病がおさまるということを願ってアマビエの絵を描いてインターネット上でみんなに見せるというムーブメントが起こっています。例のウイルスによる疫病がこれにより少しでも早く穏やかにおさまることを願ってやみません。

ということで不要不急の外出を控え続けている中、本日はアマビエの絵を描いてみようチャレンジを実施しました。

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私の描いたアマビエです。タイトルは「海岸でコブセスジダルマガムシ類を探していたらアマビエをみつけてしまった」です。水木先生の描いた有名なアマビエ画は良さげな海岸の岩盤の前でたたずんでいるものです。そしてコブセスジダルマガムシ類は海岸の岩盤の隙間に生息し、水木先生のアマビエ画の岩盤はいかにもいそうな雰囲気を漂わせています。それからコブセスジダルマガムシ類が多産するような海岸は、人も少なく、いかにもアマビエが出そうです。そうしたことを思い出し、そんなイメージで描いてみました。

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こちらはポン氏と配偶者氏が描いたものです。ポン氏の作品ではアマビエの住処型妖怪(右)や、友達の妖怪などもわらわらいて楽しそうです。配偶者氏の作品では美しい手を自慢しているアマビエが子アマビエを連れている様子だそうです。

ということで皆さんもぜひ、アマビエを描き比べてみてはいかがでしょうか。妖怪の姿に正解はありませんので、自由なイメージで描くと楽しいかと思います。

アマビエの元ネタの瓦版については京都大学貴重資料デジタルアーカイブにおいてみることができます → リンク