オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

昨日は湿地帯調査。5年ぶりくらいに行った小河川で、オヤニラミが絶滅していないか確認するのが目的でした。

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ということで、まだ絶滅していませんでした!良かったです。しかし浚渫がだいぶ繰り返されていて、かなり危機的です。絶滅危惧種ですが、福岡県内では筑後川水系矢部川水系のような大河川にも生息することもあり、種として完全に県内から絶滅する可能性は高くないだろうとは思います。しかしその一方で、小水系の生息地は激減していて、おそらく水系レベルでは絶滅した河川も出てきているのではないかと思っています。水系ごとに絶滅しないようにしなくてはいけないはずですが、現状では「他にもいますよね」ということで、配慮はされずに河川改修が進んでしまうことも多いです。

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ギンブナ・・いや、オオキンブナ・・ 気になる個体が多い水系です。

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カワムツです。絶対に絶滅しない安心感があります。

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イカワです。おそらくこちらも絶滅はしないでしょう。美しい。

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ヤマトシマドジョウです!美しい。この種はこの水系では絶滅するかもしれません。非常に限られた場所に点々といます。ところでこの個体は背部斑紋が変わっています。

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ナマズです。大きな立派な個体です。

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ドンコです。牙すごい。ドンコもたぶん絶滅はしないでしょう。

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スーパースター・カマツカです。この種も河川改修に強いです。浚渫するとむしろ増えることすらあります。しかし多様性が大事です。色々な魚がいる中で、カマツカも観察していきたいものです。

日記

浚渫、というのは河川管理上必須のものです。川というのは上から土砂が流れてきて堆積します。そうすると、川があふれやすくなります。特に住宅地や都市近郊では川があふれるのは非常に問題なので、定期的に浚渫をする必要があります。一方で、近代的な浚渫は河底の土砂を重機を使ってごっそりとっていくので、底生動物、特に動きが遅い二枚貝類やドジョウ類、あるいは一部の水草などに多大な悪影響を及ぼします。おそらく、一度の浚渫で絶滅したという事例は、かつて国内の各所であったのではないでしょうか。

ということで河川における保全対策で悩ましいのが、浚渫事業と生物多様性保全の両立です。基本的な考えとして、浚渫事業は流下断面を確保するために行われます。つまり必要な面積の流下断面が確保できれば、その形状は何でもよいということになります。という基本を押さえた上で、ここでは生物に配慮した浚渫例を2つ紹介したいと思います。

1つめは川幅いっぱいの水路的な河川で、川底にたまった土砂を浚渫する場合です。

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特に水路にはイシガイ目の二枚貝類が多産することが多くあります。通常、こうした川で浚渫する場合には、単純に必要な量まで土砂をとっていきます。しかしこうすると底質に潜って暮らしている生物は全滅します。そこで、岸際部と流心部を残して、その間を流下断面が確保できる深さまで、深めに浚渫します。二枚貝は極端に言えば流速を好み流心にいる種と、止水を好み岸際にいる種がいるので、流心部と岸際部のみを掘り残すことで、多様な種類を残せると考えました。また浚渫後はだんだんと川底が均されていきますが、それでも人工的にまっすぐに掘るよりはでこぼこした感じになり、多様な流水環境、そして底質環境ができ、イシガイ類をはじめとした多様な底生生物の生息に適した形の再生が期待できます。

 

2つめは河川敷のあるような川で、河川敷に堆積した土砂を浚渫する場合です。

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特に中下流域の河川では水際にドジョウ類やイシガイ類が多く生息しています。通常、こうした川で浚渫する場合には、単純に必要な断面になるよう直線的に土砂をとっていきます。しかしこうすると水際の底質に潜って暮らしている生物は全滅します。そこで水際を残して、陸域に堆積した土砂だけをとっていきます。もともと陸地だった場所は、いわゆるワンドやタマリに似たような浅い湿地環境になるので、ドジョウ類やイシガイ類はこうした環境でむしろ増えることが期待できます。

以上、2例を紹介しました。もっとも重要なのは、浚渫効果と生物多様性保全をいかに両立させるか、という視点です。浚渫をしないという選択肢はとれません。であるならば、むしろ浚渫を利用して生物を増やすことを考える必要があります。生物は一度減っても生息場さえあれば増えますが、絶滅すると復活しません。つまり浚渫時に「絶滅させない」ことがまず重要で、次に「増える環境を再生する」ことが重要となります。

実は、日本列島の氾濫原域の生物は攪乱に強く、種によっては攪乱がないと繁殖できない、というものすらいます。したがって、特に2の場合では、実際に浚渫後に多様な環境ができて、氾濫原性の生物が増加したと思われる例もあります。都市域の河川では上流にダムができ、また一方で河道を直線化するなどして、氾濫しにくい川になっていることがほとんどです。そのため、河川敷に浅い氾濫原湿地ができにくいのです。つまり2の例では人工的に攪乱を起こして、湿地再生を行っていると考えることもできます。

現実的には色々な制約があり、そううまいこと行く場合ばかりではありませんが、河川法において河川管理の目的として、治水・利水・河川環境の保全の3つのバランスをとって実施する、ということが明記されているので、こうした提案は近年では積極的に採用されることも少なくありません。あきらめずに、人間活動と湿地帯生物の保全・再生の両立を目指していきたいものです。

 

余談ですが、取り返しのつかない生物多様性の破壊を招くのは、実は、侵略性のある外来種や交雑を招く外来集団の放流・遺棄です。これをされてしまうと、いくら環境を再生しても、何もかも台無しになってしまいます。つまり外来種も在来種も、基本的に生物を野外に放してはいけません。基本的にそれらは環境破壊活動になります。場を再生して自力で増えるようにする、これが生物多様性保全の基本です(もちろん色々と例外はありますが)

日記

今日は秘密の湿地帯に行ってきました。久しぶりです。ここは淡水魚がたくさんいます。

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3年ぶりくらいですかね。見た目もあまり変わっておらず良かったです。

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ただ、下流側はだんだんとコンクリ張りに。。やむを得ない部分はありますが、もう少しお金をかけて、護岸と生物多様性を両立できるタイプを選んでもらえると良いのですが。ここは絶滅危惧種も多く、種数も多い場所なので、何かできないかと考えています。難しい。。

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ということで採れた魚たち。カワバタモロコHemigrammocypris neglectus

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ニッポンパラタナゴRhodeus kurumeus

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アブラボテTanakia limbata

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ギンブナCarassius langsdorfii

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イカワZacco platypus

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カワムツNipponocypris temminckii

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ヌマムツNipponocypris sieboldii

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ツチフキAbbottina rivularis

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ゼゼラBiwia zezera

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イトモロコSqualidus gracilis

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モツゴPseudorasbora parva

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ミナミメダカOryzias latipes

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トウヨシノボリRhinogobius sp.

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アリアケスジシマドジョウCobitis kaibarai!でした。10年以上前から変わらず、多様性が高い場所です。とても素晴らしいことなんですが、なかなか世の中にはその素晴らしさと貴重さが伝わりません。

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今日はポン氏もだいぶ魚を捕まえていました。成長しています。採集秘密兵器マスラオ3号機も活躍しました。

日記

福岡県産のトゲナベブタムシの愛らしい顔です。

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でもこの口に刺されると痛いです。けっこう痛い。本種は一時は県内から絶滅かもという状況でしたが、ひょっとすると最近少し増えているかもしれません。昨年も新たな多産地を発見しました。湿地帯生物の明るい話題です。

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上からの図。鍋の蓋のように平たいので鍋蓋虫。その仲間で体側のトゲが目立つので、棘鍋蓋虫。体長1センチほどの、水生のカメムシです。水中の酸素を直接取り込む「プラストロン呼吸」の使い手なので、鰓はありませんが空気交換のため水面に浮上する必要はなく、ずっと水中で暮らすことが可能です。

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下から見た顔。この口吻を小さな水生昆虫(カゲロウやトビケラの幼虫など)に突き刺して、消化酵素を注入し肉を溶かして吸います。獰猛な水中のハンターでもあります。

ところで本種の学名はAphelocheirus nawai Nawa,1905、と記載者名と種小名が同じという珍しいパターンです。通常新種記載をする時に自分の名前はつけません。どういう時に名前がつくかというと、研究者が、発見者や先駆者などに敬意を表してつける場合が普通です。ではNawaさんは自らの名をつける普通でない人だったのでしょうか?実はそうではありません。このNawaは私設の昆虫研究所や昆虫館の設立など、昆虫学の普及啓発に多大な貢献をした戦前の昆虫学者・名和靖(1857~1926)その人です。トゲナベブタムシはもともとこの名和氏が発見・採集して、当時の日本最高の昆虫学者である松村松年(1872~1960)に渡し、松村が名和に献名して新種記載する予定のものだったそうです。それを記載論文の出版前に名和本人が、昆虫世界という雑誌上で『近々「nawae」という名前で命名される』と紹介してしまいました。分類学命名規約に沿って厳密に運用されるものです。つまりこの紹介文そのものが新種記載論文という扱いになってしまい、その記事を書いたNawa氏がnawaeを新種記載するという形になってしまったというのが真相です。この話は伊丹市昆虫館の長島聖大さんにご教示いただきました。どうもありがとうございます。ちなみにnawaの語尾ですが、名和本人はnawaeとして紹介したようですが、語尾は男性であればi、女性であればeになるという決まりがあるので、正式な表記に沿って「nawai」になったものと思われます。

ということで色々な裏話があるトゲナベブタムシですが、かつての生息地の多くで絶滅してしまい、残された産地は多くありません。九州北部は比較的本種の記録が多い地域ですので、なんとかこのまま生き残ってくれればと思います。

論文(淡水魚)

中島 淳・野一色麻人・橋口康之(2021)トカラ列島中之島におけるドジョウの初記録.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan,5:1-5.(LINK

トカラ列島中之島から採集されたドジョウ属を形態と遺伝子の観点からドジョウと同定して記録した論文を出しました。オープンアクセスです。リンク先からPDFをダウンロードできます。

Table1では東アジア産種を中心にドジョウ属8種(9系統)の調節領域の典型的な登録塩基配列を整理しました。DNAバーコーディングによる種同定に使えると思います。東アジアのドジョウ属は分類が混乱しているので、DDBJなどで学名で検索しても同じ学名で複数種の塩基配列が登録されています。つまり塩基配列からBLAST検索して出てきた学名も信用できません。このTable1で示した種名と塩基配列の対応は私が厳選したので、現時点ではわりと信用できると思います。

ただ、ドジョウは容易に種間交雑するのでこの塩基配列であるからすぐその種そのものである、とはならないので注意が必要です。現物があるならやはり形態同定もしなくてはいけません。現時点での日本産種については学名未決定種も含めて「日本のドジョウ 形態・生態・文化と図鑑(山と渓谷社)」に形態的定義を示しています。

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日記

今日、2021年2月2日は節分だそうです。節分といえば通常は2月3日ですが、今年は暦の関係で124年ぶりに2月2日なんだそうです。ということでこちらでも豆まきをしたいと思います。湿地帯生物界の豆といえば、そう、マメゲンゴロウです。

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マメゲンゴロウAgabus japonicus

 

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クロズマメゲンゴロウAgabus conspicuus

 

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チャイロマメゲンゴロウAgabus browni

 

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オクエゾクロマメゲンゴロウAgabus affinis

 

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クロマメゲンゴロウPlatambus stygius

 

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ホソクロマメゲンゴロウPlatambus optatus

 

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チョウカイクロマメゲンゴロウPlatambus ikedai

 

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モンキマメゲンゴロウPlatambus pictipennis

 

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キベリマメゲンゴロウPlatambus fimbriatus

 

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サワダマメゲンゴロウPlatambus sawadai

 

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ニセモンキマメゲンゴロウPlatambus convexus

 

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アトホシヒラタマメゲンゴロウPlatynectes chujoi

美しくも多様なマメゲンゴロウの世界を堪能していただけたでしょうか。

ついでに2月2日は世界湿地の日でもあります。ということで昨年訪れた素晴らしい湿地帯の風景を紹介しておきます。

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守るべき湿地帯は身近な場所にもたくさんあります。たくさんの湿地帯生物が暮らしています。湿地帯を守って、再生していきたいものです。

日記

湿地帯に調査に行ってきました。

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目的のものは採れませんでしたが、このすがすがしさは良好な湿地帯エナジーを吸収したからに違いありません。

 

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左がキュウシュウカラヒメドロムシSinonychus tsujunensis、右がミゾツヤドロムシZaitzevia rivalisです。清流に暮らしています。

 

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ヒメドロムシ探してたらいきなり網に入って驚きました。ヤマアカガエルのオスです。繁殖期なので両腕がマッチョになっています。繁殖期も終わり頃と思いますが、うまく繁殖できたでしょうか?久しぶりに捕まえましたが、カッコ良いです。

 

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近くの水たまりには卵がありました。ずいぶん発生が進んでいます。たくさん増えると良いです。