オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

出身研究室の某先生から、河口干潟で調査中に得られたという大きなヒルの情報を得たので、今日受け取ってきました。

確かに大きい!10センチ以上あります。私はこんなの見たことがありませんでした。

触るとふにふにしていてやわらかいです。で、手元の図鑑とか見てもよくわからなかったので某SNSでお尋ねしたところ、20分ほどでご教示いただきました。SNSすごい!そしてありがとうございます!

ということでその名はヒダビルLimnotrachelobdella okae(Moore, 1924)という生物でした。色々な魚類に外部寄生し、しかもそれらが淡水に侵入しても平気(海水でも淡水でも死なない!)という驚異のヒルでした。色々と納得です。こちらの文献「長澤ほか(2013)100年ぶりにボラに寄生が確認されたヒダビル」に詳しく書いてあって勉強になります↓

100年ぶりにボラに寄生が確認されたヒダビル - 生物圏科学 : 広島大学大学院生物圏科学研究科紀要 52巻 - 学内刊行物 - 広島大学 学術情報リポジトリ

日記

年度末の混乱のさなか、延期していた東方への出張を決めてきました。

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福島県猪苗代町にある水族館・アクアマリンいなわしろカワセミ水族館です!ついに行くことができました。

f:id:OIKAWAMARU:20220327172453j:plainユーラシアカワウソやカワセミサンショウウオ類、東日本の淡水魚類など色々と目玉はありますが、個人的にはなんといっても水生昆虫の展示です。この狂気の展示空間をついに見ることができました。大変すばらしいです。必見です。今年度から業務として希少水生昆虫類の系統保存なども取り組んでいるので、そのあたりの参考になるお話を色々と聞かせていただきました。

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さて、せっかくここまで来たのであれば、湿地帯にも行きます。猪苗代湖です。

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狙いの水生昆虫はいくつかあったのですが、いずれも水中にいません。しかしあきらめる私ではありません。このように水際の陸地を掘ったり、あるいはあれこれしたりして、いくつか水生昆虫を採集することができました。

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まずはこちら、昨年に新種記載されたバンダイホソガムシHydrochus mitamurai Hirasawa & Yoshitomi, 2021です!水位が下がり雪が積もる中、気合で陸上から採集しました!!上翅会合部後端が切り欠き状になっているのは大きな特徴です。体長約2.7mm。良いです。。

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それからこちらはエサキナガレカタビロアメンボPseudovelia esakii Miyamoto, 1959。産地での個体数は多い!と自分で図鑑に書いていますが、実は冬には水域にはぜんぜんいないことを身をもって知りました。こちらも水位が下がり雪が積もる中、気合で陸上から採集しました!!体長約2.5mm。良い。。

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そしてオオヒラタガムシEnochrus haroldi (Sharp, 1884)と思われますが、このグループも色々と闇が深い・・・。九州では鹿児島県からのみ記録がありますが、基本的に本州の近畿地方以北から知られます。気合で陸上から採集しました。

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同所にいたコヒラタガムシEnochrus vilis(Sharp, 1884)。このグループも闇が深いのですが、この種についてはおそらく問題ないはず。。しかし九州にいない北方系ヒラタガムシもカッコいいですね。気合で陸上から採集しました。

ということで今回の視察&採集においては、H澤さんに大変お世話になりました。お忙しいところありがとうございました!

次は暖かい時期に行って、数万匹ともいわれるエサキナガレカタビロアメンボの大群を見てみたいです。今回、陸地から掘り出すことができたのはわずかに3個体でした。

日記

年度末進行中。報告書締め切りと会議に追われている。。

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先日に某所で見せてもらったヨシキリザメPrionace glaucaです。新鮮な個体は初めてでしたが、Blue sharkの名はさすがで、これまで見たことのない圧倒的な青さと独特の質感でした。感動。。

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ちなみにヨシキリザメはBlue sharkですが、標準和名アオザメというのは別にいて、こちらは英語ではShortfin mako sharkと呼ぶそうです。

ツイッターで教えてもらいましたが、江戸時代の着物の文様に鮫小紋というものがあるそうです(リンク)。このヨシキリザメの模様はまさに鮫小紋新鮮なサメの美しさを見て感動した職人がその再現に挑戦して出来上がったものなのかもとか想像しました。まさに生物多様性の文化的サービスですね。

 

ということでお忙しいところヨシキリザメを見せていただいたSさん、N館長、ありがとうございました!

 

日記

以前に外来種ミズワタクチビルケイソウの脅威について記事にしましたが(リンク)、今回長野県水産試験場からその具体的対策の注意喚起の資料が出ていました

www.pref.nagano.lg.jp

具体的な対策が書いてあって参考になります。ようするに5%塩水、60℃以上のお湯、濃度50%以上のエタノールのいずれかに1分間浸けると効果があるようです。釣り人、採集者、研究者、観察者などなど、水中で網や長靴を使う人は皆さん注意してください。よろしくお願いします。こうした事態になっていますので、今後はやはり水産用種苗放流もこの視点で考えていく必要があるように思います。そもそもなんで国内に持ち込まれたのかというと一番怪しいのは・・・・

 

日記

年度末進行で地味にピンチです。例年、今年こそははやく仕上げようと思っている報告書の作成が、やはり進んでいません。しかし今日は調査です。

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ということで今日はシラウオ調査でした。私個人としては10数年ぶりに福岡県内で捕獲することができました。まだ絶滅してなくてよかったです。美しいです。県内では激減している可能性があり、情報収集中です。

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シラウオSalangichthys microdon
河口域においてこの透明さは究極の保護色なんだろうなと思います。しかし透明すぎて、それっぽい写真を撮るのも難しいです。。

ちなみに標準和名シラウオシラウオ科で大きくはサケの仲間、標準和名シロウオはハゼ科で大きくはスズキの仲間です。覚えておいてください。福岡・室見川の春の風物詩はシロウオのほうです。今回調査していたのはシラウオのほうです。

 

日記

今日は調査でした。寒すぎましたがまあまあデータはとれました。調査はよかったんですが、残念な川の風景に出会ってしまいました。

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調査中に見かけた川、2つ。それぞれ別の川です。巨岩を並べてその間をきれいにコンクリートで固めています。つるつるの三面コンクリートよりは進歩していると思いますが、もう少しなんとかならないのかと思います。上の川はそれでも少し下流に人家がありますので、土石流対策と言えるかもしれません(ただ土石流が高速で流れ下るので危険性は高まっていると感じますが)。一方で下の川は周囲には全然人家がなく、今どきやりすぎな設計と思います。まったく生物多様性に配慮できていません。ひどいです。

一般的に、上流域で氾濫しないよう速やかに流す治水をすると、下流域で氾濫しやすくなり下流域の人々の命の危険度は増します。上の2地点はいずれも上流ですから、安易にこうした形の治水事業をすることは危険でもあります。だから国交省も「流域治水」の重要性を言うようになったのです。国土交通省による流域治水の説明↓

www.mlit.go.jp

しかしまあここは湿地帯生物愛好家のブログなので、生物多様性保全の観点から申しますと、やっぱり本当にまったくだめです。河川法にも書いてあるとおり、治水・利水が目的の事業であっても、税金を使っている以上は、環境にも配慮した設計にしないといけないのです。上の2河川はなるほど、「三面コンクリ」は避けていると言えるでしょうが、しかし、環境配慮にはほど遠いのです。河川技術者の自己満足の環境配慮ではだめです。

国土交通省では生物多様性に配慮した河川設計を行うようたびたび通達や指針を出していますが、特にこの2つは重要です。1つは「美しい山河を守る災害復旧基本方針」

www.mlit.go.jp

そしてもう1つは「中小河川に関する河道計画の技術基準」

www.mlit.go.jp

生物多様性に配慮した河川改修を行う上で重要な知識が多く詰まっているものです。河川技術者や保全にかかわる有識者の皆様にはぜひこの2つの資料をご一読いただきたい内容となっています。

こうしたことの積み重ねがアサリを減らしたり増やしたりすることにもつながっているということです。

論文

Uno, H. et al. (2022) Direct and indirect effects of amphidromous shrimps on nutrient mineralization in streams in Japan. Oecologia: 

link.springer.com

海から遡上して川で成長する回遊型のエビ類がいます。そうしたエビ類がいる場合といない場合を比較すると、その川の底生生物相が大きく異なり、栄養塩動態が変化することを示した研究です。

日本中の河川で堰やダムなどの横断構造物が海と川の生物の移動を阻害したことは、生態系に大きな悪影響を与えたことが想像できます。魚もエビも貝も、色々な生物が海と川を行き来していたのが本来の生態系の姿。この研究では栄養塩の動態への影響が示されているわけですが、つまり、栄養塩・・干潟・・アサリ・・ということも想像でるわけです。生物多様性保全の観点の重要性を示して研究ともいえると思いました。

内容はプレスリリース解説が詳しくわかりやすいです↓

www.kyoto-u.ac.jp