オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

トキの放鳥、本州でも進めたいという報道を見ました。トキはあのシーボルトが収集した日本産標本に基づいて新種記された日本列島を代表する東アジア固有の鳥類ですが、残念ながら我々は日本列島の個体群を完全に絶滅させてしまいました。そこで再導入という形で、中国で生き残っていた個体群を増殖し、佐渡島で湿地帯の再生を行い、放鳥し、現在では佐渡島内で500羽ほどが生息し自然繁殖も毎年確認されるようになりました。

このトキの放鳥事業について「外来種ではないか」「生物多様性保全が重要なのに外国産トキを放つのは問題」という批判はしばしば目にするところです。しかしながら、人為的に持ち込んだ、という点だけを見れば外来種に見えますが、日本列島はトキの自然分布域です。また、中国産のトキと絶滅した日本産のトキは遺伝的に多少の違いはあるようですが、分類学的には同種です。しかも日本産は絶滅しています。そしてそもそも外来種問題の論点は外来種か否かではなく、侵略性があるか否かです。自然分布域内であること、遺伝的攪乱が生じないこと、これらの点から「外来種問題」の枠でこの事業を議論(あるいは非難)することは誤りであることがわかります。トキ本来の予想される個体群構造を考えると、このトキ放鳥事例は、いわゆる「生物多様性保全の上での再導入事例」に合致するものであることがわかります。

生物に国境は関係ありません。いま日本で行われているトキの再導入による保全活動について、例えばある川の魚の事例と並べて、以下の図のように考えると、実は生物多様性保全上の問題点は少ないことや、単純に外来種とは言えないことが理解できるのではないでしょうか。

上はトキ、下はとある川の魚です。とある川の魚は支流を通して緩くつながった個体群構造をもっていて、支流ごとに多少の遺伝的な違いはありますが、同種で一つの個体群と考えられます。このうち2つが人為的に絶滅した場合、生き残っている産地から持ち込んで再導入することは、大きな問題がないことがわかります。トキについて行われているのも実は同様のことです。海を介しているのでスケールが大きすぎてちょっとわかりにくいのですが、もともとは上の図のような個体群構造をもっていると考えられ、日本で行われているトキ放鳥事例は本来の個体群再生を目指した生物多様性保全に合致した再導入事例と捉えられます。

ここで重要なのは、移入先の個体群が完全に絶滅していることを確認することです。遺伝的に大きな違いがないとはいえ、違いはあるはずなので、それを人為的に破壊しないことがまずは優先順位の高いところです。完全に絶滅しているのであれば、もはや破壊のしようもありません。そこで次善の手として、もっとも近郊の個体群を再導入することは、大きな問題がないことがわかります。

では私がトキ放鳥事業に大賛成か、というと必ずしもそうではありません。個人的に感じる問題点は、トキだけをシンボル化して餌としての外来種の放流が行われたり、十分に湿地帯再生をしていない(=絶滅原因の解決ができていない)状況で放たれたり、ただでさえ少ない希少種保全の予算をトキに全振りしてもっと優先すべき絶滅危惧種保全がおろそかになったり、と言ったあたりにあります。このあたりをきちんとしていない、トキ放鳥ありきの事業は批判されてしかるべきでしょう。生物多様性保全に貢献する形で、きちんと進めていくことが、今後は重要であると考えます。そしてそれはトキのためでもあります。トキが憎まれるような形での保全事業にするべきではないでしょう。

以前に佐渡島に調査に行った際に、雪深い水田で採餌するトキを見ました。とても素晴らしい湿地帯生物だと感動しました。少なくも佐渡島では、トキの野生復帰事業の中で湿地帯が再生し、シャープゲンゴロウモドキやサドガエルなどの生息環境はより良くなりました。生物多様性保全につながったと評価しています。トキを理由に予算がついて、理解が進み、各地の湿地帯が生物多様性保全上問題がない形で再生されるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

日記

今日は調査でした。

ニゴイです。

ニゴイ!

ニゴイです。今日はニゴイの調査でしたが、目的も達成できてよかったです。九州では主に有明海にそそぐ河川に分布しますが、それほど普通という感じではありません。ただ、珍しいというほどでもありません。

 

ギンブナとスズキ(有明型)です。

 

イカワです。まだ婚姻色は出ていません。

 

カマツカです。口が伸びています。

 

カムルチー。おいしそうな感じです。おいしそうとか言っていますが、私はまだ食べたことがありません。

 

ボラです。この春に遡上してきて川で育っている個体。どこで生まれたものでしょうか?

 

一日中投網をうっていましたが、楽しい調査でした。

 

日記

連休なのでポン氏と里山に行ってみました。

良い川!なかなかこんな川は今は少ないです。

生き物はたくさんいて、魚類はタカハヤとドジョウがいました。ドジョウもこのあたりではかなり少ないです。

意欲的に生物を採集するポン氏。

ポン氏が捕獲したヌマガエルです。

ポン氏が捕獲したアカハライモリです。

 

付近のこの水たまりにはチビゲンゴロウがたくさんいました。何気ない湿地帯ですが、いつまでもこういう環境が残ると良いです。というか21世紀まで奇跡的に残ったのだから、意図的に残すような仕組みづくりが必要です。

残念ながら上記の小川とあわせて、これらの良好な湿地帯はおそらく数年後には開発によりこの世から消滅します。ドジョウもアカハライモリもいなくなってしまうでしょう。

 

日記

有明海の生物相が壊れつつあることに関連した個人的メモと個人的演説。

アユ。有明海にそそぐ最大の河川である筑後川の河口堰である筑後大堰を管理する(独)水資源機構では、筑後大堰魚道におけるアユとモクズガニの遡上数調査をずっと続けていて、結果を公開してくれています→リンク

上のリンクから稚アユ遡上数の経年変化のグラフです。1998年(平成10年)頃にいったん減って、その後2006年(平成18年)からきわめて低調となっています。ところで筑後川のアユといえば、大分県日田市の大アユが有名ですが、福岡県と大分県の県境には魚道のない夜明ダムが鎮座しているので、実は有明海からの天然遡上個体群は存在しません。

 

こちらはモクズガニの遡上数の経年変化。アユと似たような形で、2004年(平成16年)からきわめて低調となっています。

 

次いでアサリ。今年に有明海産(熊本県産)アサリの産地偽装問題が話題となりましたが、そもそもアサリがいないという問題はもっと前から指摘されていたものです。例えばこの論文、関口・石井(2003)では、アサリが1990年以降低調に、アゲマキが1993年以降ほぼゼロになっていることを報告しています。

www.jstage.jst.go.jp

近年の有明海におけるアサリの漁獲量グラフは有明海八代海等総合調査評価委員会の第9回有明海八代海等総合調査評価委員会水産資源再生方策検討作業小委員会 議事次第・資料(リンク)の中の、中間取りまとめ第2章案の中にわかりやすいものがありました↓

これを見ると、1984年から顕著に減少し始めて、1990年代以降は低調に、さらに2009年以降はきわめて低調になっていることがわかります。

 

それから佐賀県資源管理指針(PDF)には、有明海地区におけるガザミやクルマエビのデータがありました。

クルマエビの漁獲量です。2000年(平成12年)から顕著に減少して、2006年以降はかなり低調であることがわかります。ここで興味深いのは、放流してもまったく好転していないことです(折れ線グラフが放流数)。

 

同じ資料からガザミの漁獲量です。こちらはクルマエビよりはゆるやかですが、2000年(平成12年)から顕著に低調であることが見てとれます。

 

これも同じ資料からアゲマキの漁獲量です。アゲマキはずっと禁漁していますが、禁漁しても増えません。これはウミタケも同様です。

 

有明海湾奥部の生物相に大きな悪影響を与えうる大規模な人為的環境改変としては、筑後大堰の完成が1985年(昭和60年)、諫早湾干拓の水門締め切りが1997年(平成9年)となります。遡上稚アユは1998年から減少が始まり2006年以降さらに減少し継続。遡上モクズガニは2004年に減少し継続。アゲマキは1993年以降激減しほぼゼロ。アサリは1984年から減少が始まり1990年以降さらに減少し2009年以降はまたさらに減少し継続。クルマエビは2000年から減少が始まり2006年さらに減少し継続。ガザミは2000年から減少し継続。というような感じです。

これらの結果をみると、1990年頃と2000年頃に減少のし始めをもつ種が多く、この大きな2つの環境改変は有明海の生物の激減に大きく寄与していると考えられますが、それとは別に2006年頃からさらに減少している種もいることが気になるところです。2001年頃から有明海沿岸の河川や水路で調査してきた個人的な感覚からは、やはり河川改修や水路改修の積み重ねがじわじわと効いてきているのではないかという思いもぬぐえません。溢れるほど湧くように湿地帯生物がいたにぎやかな河川や水路が、改修されて静まり返ってしまった様子を、この20年間いくつも見てきました。普通に考えてとても無関係とは思えないのです。

以前にこちらで紹介した研究(リンク)やこの研究(リンク)のように、森林・河川・水路の生物多様性は、干潟や海域の生物多様性と密接に関連していることが明らかになりつつあります。有明海の「中」だけをどうこうしても、また放流しても禁漁してもあまり意味がありません。流域生態系という視点から、山・川・水路・干潟の再生、それぞれの連続性の再生、エコトーンの再生を行い、その生物多様性を再生しなくては、有明海の再生はありえません。例えば有明海沿岸の水路地帯にはセボシタビラという絶滅危惧種のタナゴの仲間がいますが、もはや絶滅寸前という状況にありながらも、その生息地の改変は止みません。セボシタビラの保全はある希少種の保全というだけではなく、それはアユやアサリを保全・再生することにつながっています。有明海の再生を本気で目指すのであれば、流域生態系の生物多様性再生のための公共事業を、少しずつでも本気で進めていくべきであると考えます。

川にアユがいなくて、干潟にアサリがいない、というのは本当に大変な事態だと思います。どちらも本来、超普通種です。誰もそれを大変な事態だと思わないのでしょうか。自動的に湧くようにアユやアサリが生息する河川や干潟は、まだ取り戻すことは十分に可能と思います。ものすごく人類の役に立つ生物、が利用している生物、が利用している生物、が利用している生物、とどんどんつきつめていくと、ちょっと何の役に立つかわからない生物がたくさん出てきます。生物多様性保全とは、ようするにそういうことなのです。

日記

九州の身近なアメンボについて。ちょうど知り合いの研究者の方から質問されたり、SNSでも見かけたりしたので、メモ。九州の陸水域からはアメンボ、オオアメンボ、ヒメアメンボ、ババアメンボ、ハネナシアメンボ、コセアカアメンボ、ヤスマツアメンボ、エサキアメンボ、シマアメンボ、トガリアメンボ(外来種)の10種が記録されています。また、河口や沿岸域からはナガサキアメンボ、シオアメンボ、シロウミアメンボ、ウミアメンボの4種が記録されています。このほか、外洋性のツヤウミアメンボ、センタウミアメンボ、コガタウミアメンボの3種が時々砂浜に打ちあがります。

このうち九州の平野部でもっともよく見かけるのがアメンボ、ヒメアメンボ、コセアカアメンボの3種です。

アメンボです。体長11~16mm。この3種の中ではもっとも大きく(というか本種より大きな種は九州ではオオアメンボのみ)、体が細長く脚が長いです。そしてこの3種の中ではもっとも普通にみられます。ため池や水田、公園の池などに多いです。

ヒメアメンボです。体長9~12mm。この3種の中ではもっとも小さく、脚も短いです。特に不安定な水域を好み、水たまりや水田など開けた浅い環境で多くみられます。春先は移動を繰り返しており、特に目につきます。そしてよく飛びます。すぐに飛んでいきます。

コセアカアメンボです。体長11~16mm。この3種の中では中型で、体の幅がやや広く、背面がやや赤みがかかっているのが特徴です。また、上から見ると腹部の側部に5対のよく目立つ白斑があります(矢印)。林内のやや薄暗い池や水たまりに多いです。本種によく似たヤスマツアメンボという種も、九州に広く分布していますが、この種との区別はやや難しく、オスの腹端を確認する必要があります。普通にデジカメで撮れるレベルなので、オスを捕まえて腹端を撮影しておくと、あとで同定できます。

ということで身近なアメンボ、ぜひ観察してみてください!もちろん「ネイチャーガイド日本の水生昆虫(文一総合出版)」にはいずれも掲載済みです。

日記

調査中にオオキイロコガネをみつけました。久しぶりです。全国的に普通ではないとされるコガネムシの一種ですが、福岡県では少なくないような気がします。Q大生研昆虫班では能古島の昆虫相調査をずっと行っていましたが、その時にもしばしば採れてなじみ深いです。特徴的なのですぐに覚えたのを覚えています。

日記

今日は若者たちと川の調査でした。若い人たちは体力があり、動きが早かったです。

イブシアシナガドロムシの楽園を発見しました。いや、ほんと、半端ない楽園。たぶん九州最高レベル。

 

これはかなりカッコいいカマツカです。胸鰭もカッコよく写りました。

 

ドジョウの楽園でもありました。このあたりではかなり珍しい。貴重な環境であることがわかりました。

 

これは別の川。カジカです。相変わらずカジカはたくさんいました。

 

かつてアカザの楽園だった場所です。かなり苦労して1匹のみ。まだいたのは良かったですが、ちょっと心配です。でも久しぶりに見たアカザはやはりかっこいい。盛りっとした頭の、オスと思われます。