オイカワ丸の湿地帯中毒

湿地帯中毒患者 オイカワ丸の日記です。

日記

ということで2023年最後の更新となります。今年も一年間どうもありがとうございました。

2023年最大の出来事はやはり「自宅で湿地帯ビオトープ生物多様性を守る水辺づくり(大和書房)」の出版でした。同じくビオトープを趣味とする漫画家の大童澄瞳先生に表紙ほか描いていただき、生物多様性とは何か?生物多様性を守るビオトープとは何か?湿地帯の魅力とは?というところについて、これまで届けることができなかった人々に届けることができたのではないかと思います。本を読んで自宅で湿地帯ビオトープをはじめたという方も多くいたようです。うれしいです。

ということで関連して書いたブログ記事を以下にまとめます。

まずは出版時の↓

oikawamaru.hatenablog.com

それから、蚊の問題についての補足↓

oikawamaru.hatenablog.com

それから岸部の構造についての補足↓

oikawamaru.hatenablog.com

そもそもの発端は趣味の庭の湿地帯づくりを紹介したこの記事でした↓

oikawamaru.hatenablog.com

面白そう~~と思った方はぜひとも、来年は自宅に湿地帯ビオトープを作ってみて下さい。その際にそのビオトープ生物多様性の破壊につながってはいけません。生物多様性の破壊につながらないビオトープとは何か?その知識が「自宅で湿地帯ビオトープ生物多様性を守る水辺づくり」に書かれています。そう難しいことではありません。いくつかの知識があれば簡単です。機会があればぜひ読んで、挑戦してみて下さい。

www.daiwashobo.co.jp

で、あまり進まなかった研究の方ですが、それでも共同研究はいくつも面白いものを発表することができました。その中で最大の成果は、新種ナギサミズカメムシNagisavelia hikarui Watanabe, Nakajima & Hayashi, 2023の発表でしょうか。発見者のNAGANOさん、そして超人的に研究を主導していただいたWATANABEさんのおかげであることは言うまでもありません。ありがとうございました。本種のタイプ産地は福岡市です。身近な環境にまだまだ未知の湿地帯生物が暮らしていること、そして身近な環境を守ることの大切さを多くの人に知ってもらうきっかけになればうれしいです。

oikawamaru.hatenablog.com

湿地帯中毒はまだ続きます。引き続きよろしくお願いいたします。

 

日記

12月締め切りの原稿が多すぎて泣きそうです。助けて・・。そんな中、今日は湿地帯に調査へ。たぶん今年最後の湿地帯。大きなカムルチーが獲れました。

しかし今日は結局目的の魚が採れませんでした。あんなにいたのに信じられない。風景は十数年変わらないのに。こうして一種消え、二種消え・・そのままでは我々が消えてしまうかもしれないのでがんばって生物多様性保全をしようと思います。できることから、コツコツと。

 

などということを考えていたらいきなりアリアケヒメシラウオが採れて驚きました。持ち帰って撮影した写真。なお本種は種の保存法に基づき無許可での採捕が禁止されています。九州地方環境事務所からの許可取得済みです。

ちなみに私はアリアケヒメシラウオ種の保存法指定は反対派です。指定後の保全対策がまったくなされていないし、モニタリングもされていません。なのでせめて自分が採った時は記録を残せるようにと思うと毎年採捕許可申請をしないといけないし、その手続きも大変だからです。例えば指定することで水路改修や河川改修で高度な配慮をする根拠になったり、乱獲からの売買を防ぐことになったりして、保全に直結する種も確かにいます。でもアリアケヒメシラウオはほんと??です。本種は飼育はまず不可能なので観賞用に乱獲・売買されることがありません。そもそも広大な筑後川河口に広く薄くいるので、乱獲も困難です。従って採集禁止が主となる指定のメリットが見えません。また、本種は年魚であることから、いきなりいなくなることやいきなり増えることなども想定されますが、採集禁止、だとそういう情報が得られません。断片的でも生息情報をずっと拾い続けられるような形が保全につながります。

アリアケヒメシラウオは地球上で有明海湾奥部の汽水域にのみ分布する日本固有種です。危機的状況ですが、絶滅させてはいけません。本種の保全のためには、種の保存法に指定してただ採捕禁止するのではなく、現在判明している産卵場の保全、それから産卵場となり得る砂礫底環境の再生、ヨシ原を伴うエコトーン帯の再生を積極的に進めていくことがもっとも必要です。

日記

先日は仕事で中国・上海市あたりに出張でした。ちょうど14年前でしょうか、上海近郊に魚類調査に行きました。それ以来の中国です。縁がある地域です。色々と勉強になり、楽しかったです。ということで食べた魚を少し紹介。

こちら白水魚(カワヒラ:Chanodichthys erythropterus)の蒸し物。料理名は清蒸白水魚で良いのかな?14年前に中国に行った時も食べましたが、やはり好きな味。いつでも食べたいです。

 

それからこちらは14年前に行った時には食べる機会がなかった魚。鮰魚(イノシシギギ:Tachysurus dumerili)の煮つけ的な(料理名はなんていうのかな)。肉がほろほろしていて大変おいしかったです。また食べたいです。

日記

今日は一日、とある調査にて各地の川を回っていました。

こちらは典型的な都市河川。何か生物多様性がもう少しでも高まる工夫はできないものかと考えます。生き物はまだ暮らしています。

 

こちらは改修工事中の土手にて見かけた引き抜かれて立てかけられていた看板。ゴミを捨てるのは確かに生き物にやさしくないけれど、この川はゴミが多かった頃よりも生き物にやさしくない状況でした。ほんとうに生き物にやさしい川に、もっとしていかないといけないと、私は思っています。

日記

今日は湿地帯に調査。県内のとある渓流。ついでにヒコサンミジンニナを採集してきました。

何度も見たことはあるのですが、やはり知識がつくとありがたみが増す・・・。勉強が必要。殻長約1.8mm。

ちなみに近縁種にホラアナミジンニナという種がいて、この種と本種を同種にするか別タクソンにするかは議論の最中ということだそうです。ホラアナミジンニナと比較した上で記載された見解を尊重して(あと福岡推しとして)、ここではとりあえずヒコサンミジンニナとします。

しかし薄暗い渓流で肉眼で1.8ミリの巻貝は厳しかったです。なんとか目視でみつけることができたけど、眼が老化しています。もっと若い時に取り組んでいたら!と一瞬後悔したものの、若い時は小さなヒメドロムシに取り組んでいてあれ以上はできなかったので、あれ以上はできなかったな、と納得したのでした。

 

ヒコサンミジンニナの原記載は以下から見ることができます↓

www.jstage.jst.go.jpこれを読むと、ホラアナミジンニナやアキヨシホラアナミジンニナとは、本種の方がより大きいこと(他種は1.6mm以下)、螺層が殻頂に向かって一層細くなること、螺層が完全に4階を数えることができること、などで区別できるとしています。

日記

ここ数日はヒルについて勉強していました。福岡県レッドデータブック改定作業に伴うお勉強です。ヒルと言えば血を吸う生物という印象が強いですが、人類から積極的に吸血するヒルはかなりの少数派で、福岡県内では水生のチスイビルと陸生のニホンヤマビルの2種が代表的です。しかしながら、いずれの種も現在の福岡県内ではほとんど見かけることはありません。

チスイビルは2023年現在、私が調べた限りでは県東部(豊前地域)に3ヶ所の生息地を確認しているのみです。その他、県北部、県南部で最近も見たという情報はあるのですが、確認できていません。かつては各地に普通にいて、水田に入った際に血を吸われたという経験のある人は多いことから、人知れず絶滅に瀕している可能性があります。ウマビルやセスジビルなど、模様のある大型のヒルと混同されていることもあり(これらの種類は血を吸いません)、今後きちんと調べていく必要があるでしょう。

ということで福岡県産のチスイビル(とコシマゲンゴロウ)です。現在私が確認している県内のチスイビルの生息地は、環境が良好なため池(2ヶ所)と水田(1ヶ所)です。背面に5条の縦条模様があること、腹部に黒斑模様がないこと、などで近縁他種と区別できます(あと、血を吸いに泳いでやってくるのも大きな特徴です)。

 

もう一方のニホンヤマビルですが、こちらは最近本州や九州南部などでは増えており問題化している地域もある陸生の吸血ヒルです。ところが福岡県では長らく確実な情報がありません。こちらの文献↓

www.jstage.jst.go.jpによれば沖ノ島英彦山での記録があるようですが、特に英彦山では明治22年(1889年)に英彦山で採集された標本が東大に残っているものの、1946年以降に絶滅した可能性が示唆されています。私も英彦山は何度か調査に行ったことがありますが、見たことがありません。

 

今回の福岡県レッドデータブックについて、専門の淡水魚類の一部(魚類分科会)とトンボ以外の水生昆虫類(昆虫類分科会)については前回に続いて委員として担当しているのですが、加えて、一部の淡水性貝類(貝類分科会)、一部の水生無脊椎動物甲殻類その他分科会)、さらに陸生の無脊椎系動物(クモ形類その他分科会)も担当することになり(人材不足!)、大変です。県レッドは10年ごと改訂なので、10年後は若い人たちに任せていきたいです。レッドデータブックを見て、これは調べてみたいなあ、と思うような内容になると良いのですが。生物多様性保全を効果的に進めていく上で、生物各種の生息状況の変化や分布実態を把握していくことは、基礎的データとしてきわめて重要です。

 

論文

Okada, R., Morita, K., Toyama, T., Yashima, Y., Onozato, H., Takata, K., Kitagawa, T. (2023) Reconstruction of the native distribution range of a Japanese cryptic dojo loach species (Misgurnus sp. Type I sensu Okada et al. 2017): has the Type I loach dispersed beyond the Blakiston’s Line?. Ichthyological Research: DOI:1007/s10228-023-00934-0

link.springer.com

ドジョウTypeI種の分子系統地理に関する論文です。この”種”はこれまでドジョウ属クレードAとかキタドジョウとか呼ばれているものと同じで、学名未決定種です。本論文では北海道と本州の広域から採集されたキタドジョウについて、mtDNAのcytb領域に基づいた系統解析を行い、おおむね8つの集団から構成されることを示しました。また、ハプロタイプの分布から北海道は外来集団の可能性が高いことを考察しています。

この領域からみた8集団は大まかには3集団に区別され、1集団は東北地方北部から、1集団は本州太平洋側から、1集団は本州日本海側から、それぞれ検出されています。このうち本州太平洋側の集団はおおむね地理的にわかれる3集団に、本州日本海側の集団もおおむね地理的にわかれる4集団に、それぞれ区別できることがわかりました。そして北海道からは固有の遺伝的集団は見いだせず、また、本州日本海側の2つの集団が混在して出てきています(さらにデータベース上のサハリンの集団も同様)。このことから、北海道とサハリンの”キタドジョウ”は在来ではなく、人為移入に基づくのではないかと結論づけています。その他、分岐年代推定に基づく本州各集団の形成様式も地史や他の純淡水魚類の分子系統地理とも整合的であることが考察されています。

(※追記:論文中の塩基配列アクセッションナンバーに誤りがあったようです。正しくはcyt b: LC710953-LC711009、D-loop: LC712834-LC712839とのこと)

非常に図もわかりやすく、論旨も明確で、とても面白かったです。日本列島の生物相の成立様式に対する解像度がまた一つ上がりました。今後は核DNAなども交えたより詳細な集団解析が進められるという噂を聞いていますので、さらなる研究の進展が楽しみです。

ところで淡水魚愛好家として気になるのがやはり、このタイプI種の分類のことでしょう。ドジョウ属クレードAははじめにMorishima et al. (2008)により報告された集団で、その後に中島・内山(2017)により北海道濤沸湖産の1標本に基づいて和名「キタドジョウ」が提案され、学名未決定のまま現在に至っています。また、サハリン産に基づいて2022年にはMisgurnus chipisaniensisという種が新種記載されており、上記の論文ではサハリン産は本州日本海側集団に含まれています。このことから考えると、キタドジョウ=Misgurnus chipisaniensis=ドジョウ属Type I種ということが、現時点ではもっとも妥当な考え方ですが、そもそもドジョウ属TypeI種はかなり色々な遺伝的集団を含む、ということが今回明確にされたわけですので、これら各集団を形態的に区別して分類学的に定義できるのか、というところが今後の個人的な最関心事です。また、キタドジョウもM. chipisaniensisも外来集団に基づいて定義されたということが、今回の論文でほぼ確定と言えるでしょう。

ということで、キタドジョウの顔です。

今回の論文に照らしあわせると、”Northern Honshu(北部本州)”集団の純系と思われる個体(青森県産)。

 

こちらは”Japan Sea side(日本海側)”集団の純系と思われる個体(新潟県産)。

 

こちらは”Pacific Ocean side(太平洋側)”集団の純系と思われる個体(東京都産)。

 

確かに違うと言えば違うのですが、果たして・・・。しかし日本列島の純淡水魚類相は本当に一筋縄ではいかない、ということがここ20年ほどの研究で次々に明らかになっています。ドジョウはどこも同じではありません。各地のドジョウを大事にしていきましょう。